第20話 無駄なこだわりは馬鹿にできない
初手から目を狙ってくる辺り、板垣きらりは殺し合いの才能がありそうだ。
バタフライをまっすく突いてきた。
しかし、今までの相手にもっとヤバい奴はたくさんいたから、全然避けられる。
さて、ここで考えるべきはあのバタフライナイフはどこから出てきたのかだ。
板垣きらりのような細身な女性でも扱いやすいバタフライナイフをセーラー服に潜ませていたのなら、確実に気づくはずだ。俺のセーラー服に関する観察力を舐めてもらっては困る。
加えて、板垣きらりは手ぶらだ。
そうなると、残りの可能性は武器を生み出すタイプの能力くらいしかない。
次の瞬間、何もない空間から拳銃が出現した。
非日常の象徴である拳銃が出てきても、2年4組の生徒達は動かない。いや、動けないのかもしれない。
緊張に耐え切れず吐いてしまっている人と、貰いゲロをしている人もいる。
この事態は、手嶋夏美を侮っていた俺にも責任がある。余裕があったら助けてあげたい。
そんな、柄にもないことを考えている間も、板垣きらりは何のためらいも無く発泡した。
パンッパンッ。
耳を刺激する発砲音に、やっと俺にも緊張感が芽生えた。
「‥‥‥あぁ」
右膝と左脛にクリーンヒット。
拳銃の扱いも巧いのか。そこそこ真面目に練習しないとここまで正確に当てられないだろう。
もっと楽しいことなんか腐るほどあるだろうに、何やってんだよ。お前。
良いように操られて、苦しそうに銃を握る板垣きらりに腹が立ってくる。
俺と違って、お前は楽しい青春を送れる可能性はあっただろうが。
いや、これは八つ当たりだ。
子供にテメーのコンプレックスをぶつけるダサい大人になるところだった。危ない危ない。
仕事中だぞ。今の俺がやれることをやれ。
「[治れ]!」
とりあえず回復を試みるが、たぶん無理だと思う。
[‥‥‥要望が通りませんでした。申し訳ありませんが、代償のみ頂きます]
ふむ。
殺し合い中の一回目は失敗するジンクスがあるから、そこまで悔しくはない。
[右足の薬指を頂戴します]
当たり前だが、泣き叫びたいくらい痛い。
今はそんなことをしている場合ではないと、板垣きらりに向き直る。
しかし、涙声でこんなことを言い出した。
「ごめ、ごめんなさい。痛かったですよね。楽に死なせるつもりだったんですけど、優子先生がちょっと動くから致命傷にできませんでした。いや、ごめんなさい。優子先生のせいじゃないんです。私が下手なせいです。次は当てます。‥‥‥でも、ちょっとだけ良いですか?私が打ったせいで、パンツスーツが乱れて、そのパンツが見えてます。私なんかが見るわけにはいかないので、着替えてきて頂けますか?」
やるからには徹底的にやるタイプの俺は、女装するにあたって下着までこだわり、女性ものをつけている。
白いやつだ。
黒とかより一周回ってエロいことに定評のある、白い下着だ。
「‥‥‥分かった。ちょっと待ってて」
いそいそと教室を出る俺を、板垣きらりは顔を背けて見逃した。
まさか、その無駄なこだわりがこんな形で役に立つとか。
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