第13話 学校司書の翔子さん
暗い場所は落ちつく。
朝、起きる時に電気をつけるのすら苦手だ。
活動するために明かりが必要なのは、もちろん知っている。電気という発明は人類の活動時間を大幅に増やした素晴らしいものだとは理解している。
しかし、そういった理屈では解決できないくらい、光に対しての恐怖を感じてしまう。
自分の中の闇に引きこもる時間が無いと、社会に立ち向かっていけない。
だから、昼休みの図書室では電気を消してカーテンを閉め切った状態で過ごしていた。
もっと小さかった頃は、ここまで重症ではなかったはずだ。能力のリスクを理解した今思うに、[感受性の低下]という代償の影響だと考えられる。
嫌がらせレベルで能力を使う時に、高確率で出現する代償だ。
分かりやすく奪われた感覚が無いので、当時の俺はあまり気にしていなかったが、今考えれば恐ろしいことだ。
目に見えない心を少しずつ奪われる。
こんなことを繰り返していたから、己の手で人を殺しても無感情な人間になってしまったんだ。
カチッ。
そんな俺の聖域に、無遠慮に明かりが灯る。
「‥‥‥? 誰かいるの?」
若い女性の声。
「ヒンッ!」
変な声が出た。
1ヶ月間、誰1人としての来客がなかったものだから、油断していた。
隠れる場所も時間も無いので、一瞬で見つかる。
地味な見た目だが、同級生の女子には無い意思の強さを感じる大人の女性に、童貞の俺はドギマギしてしまう。
感受性は減っているが、性欲は一丁前にあるのだ。
ズンズンと近寄ってくる。
なんだなんだ。
「暇なら、司書の仕事手伝って!」
「‥‥‥はい」
この頃から、アグレッシブな女性の頼みは断れない性格だった。
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「そんな感じで、分類番号を見ながら本棚に収めていってね」
配下の作業の説明を終えた翔子さんはダンボールの開封作業に戻る。
初対面の大人の女性に話しかける度胸は無かったが、翔子さんは自分のことを積極的に喋ってくれた。
図書室が物置状態になっていることに対して、ようやく重い腰を上げた理事長が、学校司書を雇うことにしたらしい。
調べ物はスマホでできてしまうし、さらに詳しいことを知りたければパソコン室もあることに胡座をかいていたが、教育委員会に良い顔をするには図書室も、それなりに環境を整えていなくてはならない。
そんな馬鹿な高校に付属するという貧乏くじを引かされたのが、この翔子さんらしい。
「まあ、前の仕事を辞めて暇してたから丁度良かったよ。生活費もヤバかったからさ」
俺には仕事道具を次々と運んでいる。中にはそこそこ重そうな機械をあったが、足元を安定して運ぶことに成功していた。
司書ってのは、紙の束である本をまとめて運ぶことの多い職業だ。眼鏡をかけた女性はか弱いとかいう偏見を無意識に持っていた自分に気づく。
自分は偏見に晒されたくないくせに、他人には偏見を向けてしまう。
クズな俺だったが、さすがにこの時は反省した。
「だから、図書委員会もいないらしくてね。君みたいな不良生徒を最初に見つけられてよかったー」
不良じゃないんだけどな。と思いつつ、何もする気が起きなかった高校生活に突然現れた非日常に浮き足立っていた。妙な能力を持っているが、所詮は思春期男子なのだ。
そんな流れで、仕事を手伝い続けることで、図書準備室というプライベートスペースを確保することに成功した。
だから、仕方ないと思うんだ。
翔子さんの敵を殺すことになったのは。
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