第12話 息つきができる場所
高校生の頃の俺は、もはや他人だと思いたいくらいの馬鹿だった。
さらに厄介なことに、自分は賢いと勘違いしているタイプの馬鹿であった17歳の加賀深夜は、使い所を間違えれば大惨事になる己の能力を浅はかな考えで使いまくっていた。
自ら揉め事に首を突っ込んでは言霊で相手を屈服させることが生きがいという、中々に救いようのないクズ。それが俺だった。
「⚪︎ぁ!?あ⚪︎⚪︎マ⚪︎死⚪︎⚪︎な!」
「な!死⚪︎で⚪︎⚪︎いわぁ」
昼休みに落ち着いて食事を取れる場所を探していた俺は、不明瞭な会話をしていた同級生達に聞こえないように呟いた。
「[転べ]」
[承りました。鈴木俊様の足元を崩します。代償は感受性の低下です]
缶コーヒーを片手にガハガハ笑っていた連中の1人がすっ転び、頭から缶コーヒーを浴びる。
騒ぐ声に笑いに堪えながら、俺は図書準備室へ向かう。
この時の俺の危機管理の薄さに怖気が走る。
こんな、充実な高校生活を送れていないことに対する八つ当たりのために能力を使い、毎日、大切なものを少しずつ無くしていく日々。
借金が雪だるま方式で増えていくのと似た不安を、当時の俺も感じていたはすだ。
しかし、目前のストレス解消のために、そのリスクを見てみぬふりをして、人通りの少ない3階の端っこにある図書準備室に向かう。
「お疲れさん」
そこには、学校司書である上原翔子さんがパソコンの作業をしながら挨拶してくれた。
メガネに三つ編み。
理想的な女性司書さんの見た目をしているが、こんな面倒臭い馬鹿な男子にも屈託無く話しかけてくれる格好いい女性だ。
「‥‥‥ウス」
社会では挨拶と認められない雑なものをしてから、コンビニのレジ袋を机に乱暴に置く。
おにぎりを5つ、一気に喰らう。
具は全てツナマヨだ。安いし美味い貧乏学生の味方である。
量を食べられれば味は気にしない俺にとっては、これが最も効率の良いメニューだ。
5分もかけずに食べ終わった俺に、翔子さんが言う。
「じゃあ、配下よろしくね」
「‥‥‥ウス」
大人に対して無駄に反抗していた加賀少年は、翔子さんには頭が上がらなかった。
何故なら、学校の中で少数で落ち着ける場所を与えてくれたからだ。
入学から間もない頃、いついかなる時にもギラギラとしたエネルギーを放出している同年代と同じ空間にい続けることに疲れた俺は、図書室に避難した。
しかし、そこは酷い惨状だった。
本を保管するのには、ある程度の気づかいが必要だ。
表紙が破れていたり、本棚にカビができていたりと、学校の教室として機能していない上に、埃っぽく、不気味な雰囲気を纏っている図書室。
後から聞いた話だが、その不衛生さから生徒が近づかないことで有名だったらしい。
とはいえ、1人になりたい俺にとっては、理想的な環境だった。
若者の読書離れとか関係なく、人のいない図書室は俺にとってのオアシスとなった。
‥‥‥「若者」の読書離れというが、中年も老人も読書をそんなにしないだろうと思う。スマホに時間を溶かすのは、何も若者の特権ではない。そもそも、読まない奴はどんな時代でも読まない。
失礼。脱線したな。本題に戻ろう。
学校の中で息つきができる場所でぬくぬくと昼休みを過ごこと1ヶ月、ケチな我らが母校が満を辞して送り込んできた司書さんに目をつけられことになる。
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