第10話 偉い人はロリコンが多い説

 日本の行方不明者は約8万5千人に及ぶ。

 その中の大半は疾病関連と考えられていて、自らの意思で姿を消した可能性が高いらしい。


 クソみたいな現実から逃げしたいと感じることには共感する。誰だって、自分のことを知らない場所に行きたいと思うことはあるだろう。


「でも、小崎カレンさんと佐藤みいなさんは学校生活を楽しんでいたみたいだよ。‥‥‥いじめをするくらい」


 午後4時15分。生徒達が部活や委員会に精を出すこの時間に、俺はセーラー服の虹山さんと体育館裏で密会していた。

 なんだか犯罪の匂いのする表現だが、我々はどちらも成人をとうに超えており、どう頑張っても色っぽい展開には持っていけない。


 何故なら仕事中だからだ。

 もらっている給料分は働かなくてはならない。俺にはエロ漫画の主人公のようなエキセントリックな行動は取れない。


 しかし、楽しみにしていた虹山さんのセーラー服をキモくならない程度に観察するくらいは許されるだろう。


 「放課後は読者モデルをやっています」みたいな仕上がりだ。23年で培った大人の魅力が出ているが、高校生に混じっても違和感のない若々しさも同時に共存している。

 セーラー服を着ている姿は、そのまま雑誌の表紙を飾れるくらい魅力的だ。


「いわゆる、クラスの中心的人物だったらしくてね。私のクラスにも心配してるふりをしてる子はたくさんいたよ」


 心配してるふり。

 なんとなく想像できてしまう自分が嫌になる。


 同じ集団に属しているから、形だけは心配するが、実際は根も葉もない噂話の種にする連中の醜い顔が目に浮かぶ。


 他人の不幸は蜜の味。

 年に1回、24時間生の生放送をしている番組が今だに続いているのも、理由としてはこれと同じだ。


 可哀想だね、大変だね、酷いね、社会が悪いね、戦争っていけないことだよね。

 そんなクソの役にも立たないことを言って、自分は安全地帯から不幸というエンタメを楽しむ。


 そんなことを言っている暇があるなら、1つでも行動するべきなのだが、彼らは今日も家に帰りセックスをして忘れる。

 そして、翌日からもセックスしてくれる相手が絶えないように外見にお金をかけて、昨日可哀想だと言った人達には1円も募金しない。


「そんな体たらくだから、誰も板垣きらりちゃんに辿り着けてないみたい」


 そう、少し疲れた表情で言う虹山さんに、俺は麻婆豆腐丼に負けた女こと、鈴村杏奈からの情報をぶつけてみた。


「ウチのクラスの生徒から聞いたんですけど、虹山さんのクラスの手嶋さんってのが、板垣きらりと仲が良いらしいですよ」

「マジか。‥‥‥手嶋さん?いたようないなかったような‥‥‥」

「まあ、あの人達の口ぶりからは、あまり目立たないタイプみたいなので、覚えていなくも仕方ないですよ」

「そっか。じゃあ明日、その手嶋さんに話しかけてみるね」

「お願いします」


 ちなみに、犯人が分かっているのに何故こんなチマチマした捜査をしているのかというと、未成年の扱いは非常にデリケートだからだ。


 有安のようなおっさんなら、最悪殺しても始末書を書くくらいで済むが、未成年相手にそんなことをしたら我々が上層部に殺される。


 少年法とかいう馬鹿馬鹿しい法律を考えた奴もそうだが、世のお偉いさん方はロリコンが多いらしい。

 生きてきた年月が少ないだけで、彼らも立派な人間であり、悪なのに。

 

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