第6話 隠れて中指を立てる
「いきなりで悪いんだけど、有安弘志の取り調べをお願いしていい?」
「なんでですか?」
口下手な上に、あまり圧をかけて言葉を発すると意図せずに能力が暴走してしまう俺は、いつも記録係を任されている。
「ご指名だからだよー」
わざとキャピキャピして言う虹山さん。
猫ポーズというやつだろうか。何故か、人間が猫の真似をする時にする両手を軽く握り、親指だけ話すアレだ。
可愛い。
スーツというフォーマルな服装で、媚びた感じのポーズをされるのがたまらない。
思った以上に好きになってるな。
ウッカリ告白しないように気をつけなくては。
年上の部下に告白されるなんて面倒なだけだろう。
それはともかく、取り調べの話である。
指名制では無いはずなのだが、いつまでも虹山さんや課長に任せっきりってわけにもいかない。
苦手なことは避けて得意なことを伸ばすのも良いが、押し付ける相手がいなくなった時に「できないよ〜」では通用しないのが社会人だ。気持ち悪いがやるしかない。
右腕を見ると、まだ中指は生えていない。
さっきまで治療してくれていた治療班班長の鮫島玲さんの回復能力を持ってしても、完全に治るまでには時間がかかりそうだ。
仕方がないので、ポケットに手を突っ込んでいた左手の中指を立てた。
利き腕ではないため、しっくりこなかったが、あの男に再び会うことに対するストレスを紛らわせることには成功した。
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「あ!きてくれたんだね!」
全身を拘束する真っ白な死装束に身を纏う有安弘志は、満面の笑顔で俺を出迎えた。
「‥‥‥」
能力をもつ逮捕された者は、社会では死んだこととして処理される。そして、今後一生、自分の意思で外に出ることはできない。
その能力が役立つと判断されたら、調査員の1人として外に出ることはできるが、それ以外の外出は認められていない。
そんな境遇の中、この男は笑っている。
「また会えて嬉しいよ。君のことをもっと知りたいんだ」
有安弘志。
このイかれた犯罪者は、元弁護士だ。
若くして弁護士記章を胸につけた男は、有罪を無罪にする実力を持っていた。
しかし、それなりに正義感のあったことで精神を壊してしまった。
これだから正義ってやつは。役に立たない上に足を引っ張る。
「君の話を聞かせてくれたら、僕も情報を話そう」
「‥‥‥はぁ」
こういう、舌が回るタイプは苦手だ。どんどんペースを持っていかれる。
どうせ口では敵わない。だとしたら、そのシステムに乗ってやるか。
「俺が自分の能力を自覚したのは‥‥‥」
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中学2年生でしっかりと厨二病を発症していた、分かりやすい思春期を過ごしていた。
何が不満なのか自分でも説明できない精神状態で、1人下校していた。
毒を吐き出し合えるカルマは、あの時は一緒にいなかった。あいつは当時から人たらしの才能があったので誰かをコマにしている作業でもしていたんだろう。
そんな精神安定剤であるカルマがいない俺は荒れていた。
だから、前を歩いていた、どこにでもいる馬鹿でかい声で喋る連中に本気で殺意を抱いてしまったんだ。
あの人達には、本当に悪いことをした。
何の覚悟もなく、あんなことを言ってしまったんだ。
「[死ね]」って。
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