第4話 全力の八つ当たり

 標高1723mを誇る両神山で1人の男を探し当てるのは、不可能に近い。当たり前だが向こうも見つからないように工夫するはずだ。

 かくれんぼを楽しむには、この山は規模がデカすぎる。


 早くしないと、虹山さんが全ての目玉をひん剥いてしまう。

 正義なんぞ役に立たないと分かっているのに、少しでも操られている人達を助けたいと思う俺は、きっと中途半端だ。

 そんな奴は、同じく中途半端な能力に頼るしかない。


 次は何が出るかな。


「[有安弘志の居場所を教えろ]!」

[……要望が通りませんでした。たいへん申し訳ありませんが、代償のみを頂きます]


 クソ!

 こんな時に賭けに負けた。


[右手の中指を頂戴致致します]


 くる。

 経験から、あと3秒で激痛がくる。


 グリッッ。


「ッッッッッッッつあァぁァァぁァァァァァァァぁァァァァァ!!」


 クソ糞糞クソクソ!だからこの能力は嫌なんだ。


 俺の能力は、意思を込めて叫んだことを50%の確率で叶えてくれるものだ。


 これだけ聞いたらチート能力っぽいが、必ず代償を払わなくてはならない。


 賭けに勝った場合は、寿命を取られる。負けた場合は、身体のどこかを奪われる。


 利き腕の中指は、もうこの現実世界には存在しない。能力保持者の俺ですら皆目検討もつかない。今ごろ空間を彷徨っているだろう。


 もう永遠に戻ってこない中指があった部位は、ただ、血だけが流れ続ける。これでは中指を立てることもできない。


 痛い。痛すぎて気持ちが悪い。今にも吐きそうだが、巧く嘔吐することすらできない。


 思考力がグングン低下していくのが分かる。

 今、自分が何をするべきなのかを判断できない。

 だから、こんな愚かな選択ができたのだろう。


「[有安弘志の居場所を教えろ]!!!」


 2連続で失敗したら、痛みのあまり失禁するかもしれないが、知ったことではなかった。

 早く、こんな仕事を終わらせるんだ。


[……承りました。有安弘志様の居場所を提示いたします。代償は2年の寿命です]


 脳を支配される不快感に耐え、動き始める。

 こんな目に合わせやがって。たっぷり八つ当たりしてやる。

\



[そのまま真っ直ぐ進んで下さい。10m先の大樹に寄りかかって座っているのが、有安弘志様です。では、またのご利用をお待ちしております]


 山道をあること1時間、やっとこの声とおさらばできる。

 あとは、あの男をぶん殴るだけだ。


「‥‥‥驚いたな。まさか本当に辿り着くなんて」


 初めて肉眼で見る有安弘志は、優しく微笑んでいた。

 そこにいたのは、監視カメラでの暴力に支配された青年の面影はなく、順風満帆な余裕のある若者の姿だった。


 薄気味悪いが、攻撃の手を緩めるつもりはない。


1時間の山登りをしている間に痛覚は無くなっていた。経験上、この症状は本気でマズい。早く部長に治してもらわないと手遅れになるかもしれない。

 アドレナリンがドバドバ出ているうちに、こいつを戦闘不能にする。


「‥‥‥本物の殺意だね。さすがあの人の元相棒だ」


 なんか不愉快なことを言っている気がするが、セリフを理解できない。今はただ、暴力による解決を目指すだけだ。


「そんな力を込めなくても大丈夫だよ。どうせ僕は君に勝てない」


やっと0距離にまで近づけた。

 拳を握りしめて振りかぶる。

 相手の顔面にめり込んだ感覚を堪能してから、視界が歪み始める。いくら目を見開いても視界を闇が覆い続ける。


 あぁ、限界か。


 別に死んだところで後悔はないけど、虹山さんに羊羹のお礼くらいはしたかったなぁと思いながら、闇の世界に身を委ねた。


 

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