第3話 役に立たない正義など捨ててしまえ
痛いのは嫌いだ。
あの頃のことを思い出すから。
「加賀くん!」
虹山さんの声と共に銃弾が名も知らぬ男の頭を撃ち抜く。
恐らくは、有安弘志に操られているだけの一般人は、一瞬で絶命する。虹山さんの銃の腕が良いので、無駄に苦しませることなく逝かせられたのは不幸中の幸いか。
「ボーっとすんな!集まってきてるぞ!」
そんな感慨さえ許されないのが戦場というものだ。情緒も何もなく嫌になる。
痛む身体に鞭を打ち、周囲の状況を確認する。
パッと見たところ、100人弱といったところか。虚な表情をした老若男女を虹山さんが薙ぎ倒している。
虹山さんが能力を解放したようだ。
多対一は虹山さんの得意とする戦闘スタイルだ。
虹山さんの能力は『身体力強化』。文字通り筋力やスピードを強制的に強化させるものだ。
それは、素手で人間を殺すことができるレベルにまで達することができる。
グシャッッ。
1人の青年の頭部を岩に叩ける音だ。遠目からでも頭から脳みそがはみ出しているのが分かる。
この仕事は一般人であろうと捜査を邪魔してきた者を殺害しても良いことになっているが、この光景は未だ慣れない。
初めてこの人と仕事をした時は、その場で嘔吐してしまった。
吐いてから、自分だって散々この手を血で染めてきたくせにと、未だに常識人ぶる己に再度吐き気を催した。
「正義感は早めに捨てた方が良いよ。役に立たないから」
あの日、そんな面倒臭い男に虹山さんはそう言い放った。
その通りだと思う。お題目だけの正義が機能していないから、俺はこんな目にあっている。
余計なことを考えるな。仕事中だぞ。
俺が今すべきことは、有安弘志を確保すること。こんなところで倒れているわけにはいかないんだ。
「[治れ]!」
一か八か、俺は叫ぶ。
[……承りました。加賀深夜様の傷を回復いたします。代償は5年の寿命です]
いけ好かない女の音声が脳に流れてから、傷跡も刺されたことで空洞になっていたスーツも元通りになる。
しかし、5年か。
自分が何歳まで生きられるのか分からないから、5年が長いのか短いのか分からない。しかし、大切なものをなくした時の喪失感が俺を襲う。
まあ、今死ぬよりはマシだ。
「虹山さん!ここ任せていいですか!?」
「どうしたどうした!?そんなもんかぁァァァぁァぁ!?こんだけ数いるんだから私の目玉くらい潰してみろやぁァぁァァァぁァ!!!」
あ、これは邪魔したら俺が殺されるやつだ。
瞳孔開いてんじゃないかってほどキマっている。
俺の能力にリスクがあるのと同様、虹山さんの身体強化能力にも、能力発動中は頭がアレになるという代償がある。
アレって何だとか聞かないでくれよ。良くしてもらってる上司を悪く言いたくないんだ。
「ヒャッハーァぁァァァぁァァァ!!!8つ目ぇェェェぇェぇ!!!」
可哀想に。目玉をくり抜かれている。
ああなった虹山さんは、何故か目玉を攻撃することに命をかける。
まだまだ、己の眼球でこの美しい世界を見たい俺は有安弘志を探しに駆け出す。
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