第3話 高度は6

 高度は6

 第二関門がやってきた。

 迎えるのは一機、ただその大きさが少し違った。

『そこの機体、船籍と認証コードを提示しなさい』

 さきほどのHFFPよりも威圧感を含めた通信音声。

 後方百メートルで二人のハイフライヤーを追うのは、航空自衛隊所属無人巡回偵察機。

 全長十五メートルの大きなラジコン飛行機だ。二人のようにコックピットに誰かが乗っているわけではない。自動航行プログラムと地上からの遠隔操作で機能している。

 コードネーム『グリフォン』

 全身を黒く塗られ、後部には白で識別番号が書かれている。

「自衛隊と東京でドッグファイトとはね」

 見つかる可能性は考慮していた、あれだけ高速で上昇していれば嫌でもレーダーに引っ掛かるだろう。そのために慎重にレーダー網を掻い潜るようルートを決めていたわけだが、銀花のおかげでおじゃんになった。

「ど、ど、ドッグファイトなんてムリだ!」

 鉄斗が叫ぶ。

 こちらの機体を乗用車と表現するなら、あちらはF‐1、そもそもの基本性能が違いすぎる。

「燃えるねえ」

「ムリムリムリムリ」

 当初の目的を忘れてしまったかのように心底楽しそうに笑う銀花に、鉄斗が黒髪を揺らしてぶんぶんと首を振り拒絶をする。

「そのためにあれだけ色々詰め込んだろ!」

「あれは最終手段の逃げ切り用、格闘何て出来るわけがない」

 偵察機といえども、場合によっては領空を侵犯した機体を撃墜するだけの機能は持っている、バルカン(連続射出十四ミリ弾)とか、ワスプ(電磁誘導弾)とか、二人のハイフライヤーなら一瞬で塵になりかねないものとか。

「出来ないの?」

「……出来るよ、それくらい!」

 銀花のいつもの挑発に乗ってしまい、しまった、という顔を鉄斗がするも、時既に遅し。

『繰り返す、船籍と認証コードを提示しなさい』

 日本語の音声の後、続けさまに他国語が並ぶ。

「メデューサは?」

「あれじゃムリ、向こうは無人機だし電磁シールド付きだ」

 鉄斗が席右端に備えてあったキーボードを引き出す、プラスオーバーやタッチパネルでは対応する能力の限界だ。

『プログラム変更……』

「省略」

『省略を承認』

「PCS(プロペラント制御システム)を一時ダウン、外部情報取得にシステムリソースの八十パーセントを占有」

『バランサーの能力が低下する危険性があります、実行しますか』

「もちろん」

 カタカタとキーボードを無情表で叩く。

「テツ、どうすればいい?」

「今計算してる、けど実戦で勝つのは無理、何とか向こうの光学レーダーと電子レーダーを一時的に使用不可能にするだけだ」

「それじゃ!」

「わかってるだろうけど、撃ち落とすだなんて考えないでね」

「チッ、あとは?」

 明らかに不機嫌な返しに、本当に撃ち落とす気だったのかと今さらながら彼は心配になってくる。

「基本は避け一手、バランサーはほとんど機能してないと思って、あとは銀ちゃんの腕次第!」

「リョーカイ、燃える」

 フットペダルを踏み、操縦桿横の左レバーをBに移動、逆噴射し、後ろに高速移動する。

『交戦上等』の合図だ。

『初期設定を変更しました、情報を有効化するために再起動してください』

「再起動開始、エラーチェックは省略」

『再起動します』

 同時にグリフォンとランデブーする。近くで見ると、相当な迫力がある。

「銀ちゃん、こっちの利点は小回りが利くことだけだ、わかってるね」

「ああ、あと一個、操縦が私なことだ!」

「それは不安要素だ!」

 グリフォンのバックを取るハイフライヤー、空中戦で敵に後ろを取られるということはデッドエンドを示す。

 だが、二人にはグリフォンの装甲を破れるだけの物理的攻撃力は皆無、後ろを取ることで後ろを取らせない戦法、またの名を時間稼ぎ。

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