紅い記憶②
「今日時間はあるかしら? 貴方に話があるの」
学校からの帰り道。もうすっかり黄昏時になってしまった空の下を二人並んで歩いていると、束沙が突然そんなことを尋ねてきた。
「時間ならいくらでも」
帰っても、誰もいない我が家を思い出してそう返す。
「飛鳥さんならそう言うと思った」
そう言って含み笑いをする彼女に、分かってるなら言わないでくれと返そうとする言葉をぐっと飲み込んで、黙って歩く。彼女には僕が言うことなんてお見通しなのだから。
来週には十一月を迎える今の時期、気温は安定しない。けれど、安定しないそれは、僕にとってとても居心地よく感じるのは、僕自身が中途半端で、不安定だからだろうか。
「話って?」
僕は横を歩く束沙に尋ねると、彼女はくだらないことを聞くなとでも言いたげな視線をこちらに向ける。
「私の家で話すわ。あんまり外では言いたくないの」
僕は『あの』話かと一人で納得して、溜息を吐く。僕だけが知っている彼女の秘密。
それから彼女の家に着くまで僕らの間に会話はなく、ただ、秋の空気に冷やされた風が僕らの微妙な距離を吹き抜けて行くだけだった。
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