一章:救世の聖剣、危急存亡の秋!

肆 分裂と結束のヴォイス

 入学早々、佐藤祥太と天王寺花音との強烈な出会いを果たした転入生、田中武。最初こそ浮世離れした二人に戸惑ったものの、彼らに助けられた事によって心を打たれ、武は救世の聖剣に入部する事となった。


「……時にシャドウよ。これは本当にやるべき運命さだめにあるのか?」

「当たり前です。救世の聖剣ともあろう僕らがこの程度で臆してどうするんですか」

「ローゼス、覚悟を決めるがいい。救世の聖剣の新たな門出ジェネシスに相応しい一歩だ」


 三人となり、新たな形となった救世の聖剣。そこで祥太達は昼休みの時間に放送室を無断で占拠し、救世の聖剣は本格的に活動するべく再始動したと大々的に宣言しようと目論んだのである。

 先陣を切るべく祥太は大きく息を吸い、電源が入ったマイクに向かって声高らかに高笑いを挙げた。

 


「フゥーハハハハッ!!! 聖覇学園ミズガルズにて夢への旅路オデッセイを目指す生徒達ともがらたちよ御機嫌よう!! オレこそが救世の聖剣が頂点!! セイヴァーブレイドだ!! 遠からん者は音にも聞け!! 近くば寄って――」

「ショータ君もっとセイヴァーブレイドの部分抑えて下さい! 殆どの人は言ってる意味分からなくて話聞いてくれませんって!」

「……聖覇学園の生徒一同。二年Ⅰ組のセイヴァーブレイドだ。以後、宜しく。……興が乗らん。オレは帰る」

「あぁもう僕が悪かったですって! セイヴァーブレイド出していいですから拗ねないで下さいよ!」


 開口一番の喝声は何処へやら。自身のアイデンティティを踏みにじられた祥太は不機嫌そうな表情と共に平板な声で訂正する。やはり腑に落ちなかったのか椅子から立ち上がって帰ろうとしていたので武は賺さず彼の御機嫌を取りながら両肩を掴んで阻止した。


「おっ、オナジク二年Ⅰ組!! セイヴァーブレイドがミギウデ!! リャイトニングロォーゼス!!」

「何を緊張してるんですかカノンちゃん! 声が上擦ってますし大事な名乗りの所噛んでますよ!」

「う、五月蠅うるさいたわけ!! そんなの我にも理解わかっておるわ!!」


 声の調子は勿論の事、全身の血潮も上がりに上がっていてライトニングローゼスとしての真価を発揮出来ていない花音。無論、花音の失態はしっかりとマイクに拾われているだろう。


「こうなったらシャドウ! オマエがこの状況デッドエンドを打破せよ!!」

「ええ!? そんな無茶言わないで下さいよ!?」

「散々我々の事をとやかく言ったのだ!! 貴公も雄姿ブレイヴを示せ!!」

「ぼ……僕は……救世の聖剣の……頭脳担当、シャドウ……ブレイン……です……。そ、その、ど、どうぞ……よろ……しく……」

「何だその蟲みたいな声量ヴォイスは!? もっと肚から声を出せ!!」

「カッコ悪い! カッコ悪いぞ!! そんな半端に恰好付けている感じが本当にカッコ悪いぞシャドウ!!」

「あーもう!! 僕には僕の流儀があるんですから口出ししないで下さいよ!! ――あぁもうダメだぁ……!」


 では言い出しっぺの武はどうなのかというと、まだ救世の聖剣のノリに乗れていないのか、少し照れ交じりにか細い声で自己紹介をする始末。案の定二人がそれを許す筈も無く徹底的になじり始めるのであった。

 あまりにもグダグダになってしまい、もう駄目だと武は一人ぼやいて頭を抱えていた。だがこの悪い流れを断ち切る救世主セイヴァーブレイドとして祥太が再びマイクを握った。


「傾聴せよ諸君! 混沌カオスに満ち、邪悪イヴィルが蔓延るこの現世ミズガルズ! かつては暖かな光を胸に抱いていたキサマ達も行く行くは闇に呑まれてしまうかもしれない! ……だが努々ゆめゆめ忘れるな!! この聖覇学園には救世の聖剣があるという事を!! そう!! オレが!! オレ達が闇を切り裂く剣となろう!!」


 真剣な眼差しと共に放たれる祥太の玲瓏なる魂の咆哮。それに呼応して心が一つとなった気がした。大きく深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる事が出来た花音と武も追随する。


闇の迷宮ラビリンスに迷いし仔羊達! 我らが光射す道となり、貴公達を救済すると約束しよう!! つまり! 救世の聖剣は貴公達の悩みを解決するというワケだ!!」

「旧校舎の四階空き教室で待ってますので今一度お越しくださーい! 後! 救世の聖剣は新規加入者メンバーも募集してまーす!!」


 まずは依頼人クライアントが来なければ話にならない。なので三人は放送室を独占して大々的に救世の聖剣を宣伝した。終わり良ければ総て良し。最初こそバラバラであったが最後は一丸となって伝えたい事を伝える事が出来た、筈である。


「また貴様らか救世の聖剣!! 此処を開けろ!!」


 廊下からでも響く程の怒声と戸を叩く打撃音が室内につんざく。どうやら放送室の使用も此処までのようである。三人は目配せをした後、大きく頷いた。


憤怒の生徒会副会長ルシファーが降臨したのでオレ達はこれにて失礼する!! 諸君らに救世の聖剣の導きあれ!!」


 そう言い終えてマイクの電源を切ると、祥太達は窓を開けて脱出を図った、がその逃走ルートは既に読まれていたらしい。目の前には怒り心頭の副会長が仁王立ちで両腕を組んで佇んでいた。


「愚物共……! 覚悟は出来ているのだろうな……!」

「……クックック。前途多難、だな」

「そう悲観するな。オレ達の戦いは今始まったばかりだろう」

「そうですよ。此処から、ですよ」

「ボクを無視するな!! 取り敢えず生徒会室まで来い!!」


 祥太達は生徒会室まで連れてかれてしまい、みっちり指導を受けた後、しっかりと反省文を書かされたのであった。

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