弐 無力と絶望のカウントダウン

「まずは校内ミズガルズを見回っていく。救世の聖剣が伝説レジェンドとして名を刻む為の布石フラグメントにもなるからな」


 成り行きで祥太達と共に校内を巡回する事になった武。


「サバゲー部、ホラー映画研究部、お散歩部、ペット愛好部……、何か普通じゃない部活が一杯ありますね」

「この学園は元々規則ルールに厳しい校風スピリッツだったのだが、今の生徒会長とも言われている上位存在が執る方針コンパスによって緩く自由なものへと変わったのだ」

「そして生徒達われらがどうほうの自主性を尊重した結果、様々な部活動を認可した為、聖覇学園ミズガルズは群雄割拠の時代となったというワケだ」


 いくらたった数年でここまでガラッと変えたって一体どんな人なのだろうか、と武は改めて祥太達が語る生徒会長に対して驚異と畏怖を抱いだのであった。


「その、生徒会長ってどんな人なんですか?」

生徒会長アマテラスを知りたいのか? そうだな……端的に表現するならば、オレ達の師匠マスターとも言えるな」

「クックック……生徒会長アマテラス聖覇学園ミズガルズにて最強……肝に銘じておけ」


 このある意味無敵過ぎる二人を以てして最強と謳われる存在。益々得体の知れない人物としか思えなくなってしまった。それにしても祥太達のマスターとなると、今以上に会話が成立しない様な事ばかり言う人なのだろうか、と武の心は会ってみたい気持ちと会いたくない気持ちで鬩ぎ合っていた。


「佐藤ー、天王寺ー、ちょっと来てくれないかーい?」

「クックック……! オレ達を覚醒めざめさせる初撃は深緑の番人からか! 面白くなってきたな! 二人共! オレについてこい!!」

「おお! 如何にも何でも屋らしい感じがしますね! ……ってちょっと何処から外に出てるんですか!?」


 校内を巡回していると五十路位の先生が校舎の外から祥太達を呼んできた。待ってましたとばかりに二人は窓から飛び出して声の鳴る方へと向かっていったので武も正規のルートを使って急いで追いかける事に。


「すまないね。この歳になると屈むのがもう大変で大変で……」

「クックック……、オレが横薙ぐ生命刈りの鎌デスサイスは天叢雲剣をも凌駕する。先生マエストロは茶でも飲んでゆっくりしておけ」

「……あの……何してるんですか……?」



 迂回して遅れながら到着した武が目にしたものというのは、校舎の裏側に生い茂っている雑草を刈る祥太と花音の姿であった。


「キサマの目は節穴か? 校舎裏アンダーワールドに蔓延る深緑の侵略者の殲滅以外に何が見える?」

「いや見れば分かりますけど草刈りって……」

「折角だ、転入生。貴公も援護バックアップするがいい」

「ええ!? 何で僕まで!?」



大袈裟に飛び出しておいてやっている事が雑用だったので思わず肩透かしを食らってしまった。そんな武に追い打ちを掛けるべく、今日は見学だけの筈なのに、花音が余っている鎌を差し出して手伝わせようとしてきた。

 無論手伝う義理なんて無いのだから断ろうとした時、依頼者が彼に話し掛けてきた。


「おやアンタ。この子達の新しい仲間かい?」

「いや僕は――!」


 違います、と言いかけたその時、祥太と花音が横から肩を組みながら武の反論を無理矢理遮ったのだった。


「ククク! その通りだ! この男こそが救世の聖剣の超新星スーパーノヴァだ!」

「ちょ、何言って――!」

「今はまだ覚醒の時を待つ臥龍ではあるが中々見込みはあるぞ! 期待しておくがいい!!」


 結局武の主張は押し切られてしまい、勝手に救世の聖剣のメンバーという事にされてしまった。

 意気揚々と草刈りの作業に戻った二人の背中を見て、どうして自分は嫌な事は嫌だと言えない性格なんだろうと内心落ち込んでいると、先生が武に耳打ちしてきた。


「あの子達、確かにヘンな事ばっかり言ってるし結構強引だけど、決して悪い子じゃないんだよ。そこん所だけでも分かってくれないかい?」

「それ他の人も同じ事を言ってたんですけど……」

「大丈夫。そのうちアンタも分かる時が来るさ」


 教諭はそう言い終えると武の背中を軽く押し、祥太達の所へと行かせて草刈りに参加させたのであった。



 その後も武は祥太達と一緒に依頼とは名ばかりの雑用を押し付けられていく。救世の聖剣とは聞こえは良いものの、本質は体のいいパシリとしか見られていないのではないかと、一旦そう考えると忽ちやる気を見出せなくなってしまっていた。


「……セイヴァー君、ローゼスさん。君達はどうしてこの部活をやってるのですか?」


 軽音部が使う為の機材を運びながら武が後ろから問いかけると、二人は立ち止まって振り返った。


「いきなりどうした転入生?」

「その、何ていうか、こんな事に何か意味なんて有るのかなって思いまして――」


 ――嗚呼、言ってしまった。こんなの、明らかに一生懸命に部活動を行っている二人に水を差す様な失言じゃないか。


 言い切ってしまった後で武は後悔する。そして二人の反応を見るのが怖くなってしまった。恐る恐る俯いていた顔を上げると、祥太と花音は互いに顔を見合わせた後、何処か思い悩んでいる様な表情を浮かべていた。


「意味か……。セイヴァーよ、救世の聖剣の戦記ストーリーに何か意味を感じた事はあるのか?」

「そんなものはない! オレはオレの衝動パトスで救世の聖剣の存在意義レゾンデートルを満たすまで!! 考えるなドンシンク! 感じろフィール!! キサマのソウルに宿りし理想の姿を!!」

「フハハハ!! それでこそ闇を切り裂く剣セイヴァーブレイド!! 我が命を捧げるに値する救世主メシア!! さぁ超新星スーパーノヴァ!! 貴公もセイヴァーの雄姿をしかとその目に焼き付けて……む!? 転入生ニュービー!? 田中君!? 何処行ったの!?」


 この機を逃せば一生付きまとわれるかもしれない。武は二人が熱弁している間にこっそりと機材を置いて雲隠れした。

 正直言って付き合ってられないと判断したからだ。今日一日無駄にした時間を挽回するべく、武は他の部活を見て回ることにした。


「にしても明日どうしようかなぁ」

「あぁクソ! イライラする!!」


 同じクラスだから明日の朝には何方かが休まない限り対面する事は必然である。バックレた際の角が立たない言い訳を考えながら廊下を歩いていると、突如として暴言が轟いたので武は思わず飛び上がった。


「佐藤と天王寺のクソッタレめ!! コソコソチクる様なマネしやがって!!」

「きゅうせーのせーけんだか何だか知らねーけどいい子ぶりやがってムカつくったらありゃしないぜ!!」


 怒声のする空き教室を覗き込んでみると、如何にもな不良生徒達が屯しており、鬱憤を晴らすべく机や椅子を蹴り飛ばしていた。


「そう言えば天王寺さんがあの時言ってた不良って……」


 益々あの二人に関わってはいけない様な気がしてきた。急いで此処から離れないとと思い立ち去ろうとした瞬間、何かにぶつかり尻餅を着いてしまった。


「……お前、田中だな」


 その声を聞いた瞬間、身体が凍り付く様な感覚に襲われてしまった。武が見上げると、忘れもしない顔が目の前に映し出されていた。


「……阿久津あくつ、君」


 まさかこの高校に居るとは思いもしなかった。そしてこれから始まるであろう武の華やかな高校生活に終止符が打たれる事となったのであった。

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