第24話 龍が見えちゃいけませんか!

 龍は想像上の動物…と当たり前に思っている人間は多い。以前にも“白龍”のお話をしたが、龍たちは滅多に現れないだけで、時には誰もが見えるよう雲を使って姿を現す時がある。朱雀もそうである。

 冬を迎える季節になると、大陸から寒気をつれ“聖獣キマイラ”(尻尾が蛇のライオンでギリシャ神話に登場する)がやって来る…黒い雲に隠れて来るのだが不自然なのですぐに分かる。

雪の多い地方に行くと、山の上に大きな雪雲が浮かんでいて、ところどころが筒状に垂れている部分がある。その雲は“雪蟲(ゆきむし)”と呼ばれ、垂れているところは産道で“雪蟲の子供たち”を産み落としているのだ。その雲を見ると近いうちにまた雪が降る。こう話すと空はまるでファンタジーで溢れているようだが事実なのだ。

 食事先で知り合い親しくなったご年配の女性がいるのだが、たまたま演技担ぎの話題で盛りあがった時、つい勢いで口を滑らせたのか“龍が見える”ということを話されたのだ。咄嗟にご本人は“まずい!”という表情をしたのだが、こちらがまじめな顔で話を続けて欲しいとお願いすると、「変に思わないでね」とつけ加えて話を続けた。

 最近は地面の中を数体の龍がうねるように進んで行く光景をよく見るという…彼女を安心させるために自分たちも龍をよく見かける話をして、“試し”に「最近ですが、空の雲にこれまで見たことのない龍を見ませんでしたか?」と尋ねると、「えっ!」とすぐに驚いたようす…明らかに見たという表情をしていた。この女性は間違いなく“龍が見える”人間だと確信した。

 「あれは鮫龍(こうりゅう)」といって、「しっぽの先が横型のひれでとても珍しい龍です。見たこと自体が幸運ですね…」と説明した後に、「先ほど話して頂けた地中を進んでいく龍のことはご存じかどうか分かりませんが、それは明らかに“地龍(ちりゅう)”と呼ばれるものです。先ほど南のほうに進んでとお話しされた方向はC県方向ですよね。彼らは大抵火山の近くに生息していて、マグマや地盤、つまりプレートを管理している龍たちです。C県方向はここ最近“地震”が頻繁に起きていますよね。きっと抑制するために向かっているところを見たのでしょう…」と説明をした。女性はふたりが“龍”に詳しいことに驚いたようすである反面、「他人に変に思われたり、違う目で見られたりするのが怖いから誰にも話さないと決めた…」と話された。確かに正論である。「ふたりも同じですよ」と話すと少し笑顔が戻って安心したようすであった。

 地方の山々にはそれぞれ縄張りとしている“青龍(せいりゅう)”が居る。性格は“制約されるのが嫌い”、“自由に飛びまわるのが好き”、つまり“自由奔放”なのだ。穏やかな日に突然突風が吹き荒れるのは彼の仕業が多い。特に悪気は無く、自分の棲みかとしている山間部を守っている。龍にはたくさんの種類がいる…彼らもまた、ほかの惑星からお手伝いに駆り出されてきているのだ。龍だけが住む惑星があるというから驚きだ。

 龍には習性があって、棲みかを移動する際はしばらく棲んでいた滝つぼに“玉(ぎょく)”を残していく場合がある。龍の“気”の塊(かたまり)なのだが、手に入れるには場所が場所だけにかなりの危険をともなう…さらにそれは全く水と同じ色で“手のひらで隠せる大きさ”なので、直接触らなければ水中ではどこに落ちているのかさえ分からない…だが、それを一度手にしたら決して他人には話すことも見せることもしないだろう。それを良いことに利用するか、悪いことに利用するか…本人次第なのだ。人生も大きく変わるかも知れない。なぜなら“玉”に秘められた力は“龍の眼”と同じだから…


※ 最近、S県にある日本一大きいB湖の写真を見て、大昔から棲んでいる巨大な黒龍が居ることが分かった。後で調べたところ、そこに浮かぶC島には黒龍を祀った“黒龍堂”なるものがあったので、昔の人間には見えていたのだなとつくづく感心した。

ただ、残念なことに時代が変わり黒龍を真剣に祀る者は無く、存在すら忘れ去られ、

ただのおとぎ話になってしまったせいで、今は湖の底で“ヘドロまみれ”になって静かに時の過ぎるのだけを待っている。昔のように皆でお供えをして龍神を讃えれば、それがまじめな願いであれば聞き入れてくれるかも知れない…

黒龍の性格は本来“気性が激しい”ので、ふまじめな願いだとかえって怒らせるかも知れないのでご注意を。

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