第22話 精霊たちが食べられた!!
木々たちを見て生気が無く、元気のないようすを感じ取ることが出来るだろうか…
山々を眺めた時、茶色く枯死している木々たちがあるのを見たことがないだろうか…
ビルの谷間に暮らす人々の眼には自然の変化に気づかない者が多いだろう…
大自然の中で暮らす動物や植物たちに身体の栄養はもちろん命の栄養を与えてきたのは人間ではない、全て“神”や“精霊”である。
なかでも森林は植物や動物、人間が生きていくうえで無くてはならない大切な役目を背負ってきた…人間は森林から数知れない恩恵を受けてきている。それがなんであるか今さら説明の必要は無いと思うが、今、この瞬間に世界中の森林がひとつ残らず消滅したらどうなるか、考えたことがあるだろうか。
以前にも書いたが、木々には“精霊”が宿っていた。厳密にいえば、木々だけではなく自然界の至る所で活躍していた。目的は神のお手伝いとして地球上の全ての動植物の環境を整えることで人間の生活環境を支えていく役目を果たすべく、ほかの惑星から来ていたのだ。
ある日を境に精霊が姿を消し始まった…それはT都の中心部から始まった。その範囲は勢いを増してC区からS区へと広がっていった。それにいち早く気づいた白狐が知らせに来たのだ。ただ事ではない、その日の深夜S区に向かった…道路脇の街路樹や公園にいたはずの精霊たちが居ない…あたりに一体でも見つかればと思い走り回りったが見当たらない、時間ばかり過ぎてゆく…翌日も仕事があったので仕方なく帰路にむかうことにした。するとT区を過ぎるあたりで信号待ちをしている時、話の出来る精霊が慌てたようすで妻に声を掛けて来た。交差点を通過後、車を端に寄せて止め、話を聞いて絶句した…
精霊たちが急に姿を消したのは“悪魔に食べられた”からだという。想像もしなかった事態である。すぐにやめさせないとならないが、理由が分からなければこちらも勝手な手出しは出来ない…知らせに来た精霊には、付近の仲間たちにも声を掛けて取り合えずO稲荷に向かうよう指示をした。そこから一番近くて白狐がいるのがO稲荷なのだ。そこなら安全だからだ。こちらも白狐たちの元へ急いだ。T都の精霊を保護するよう、各方面の白狐に大至急連絡をしてしてもらうためである。
車を走らせながら神様に伺いを立てた、すると…悪魔の暴走が始まったその日は、年に一度“魔界の扉”が開く日だったという。その開いた扉が一定の時間を過ぎるとその日のうちに閉まるはずが、何かの原因で開いたままになってしまった。それに気づいた“低級”の悪魔たちが勝手にこちらに出てきてしまったという。
魔界の上層部は協定を遵守しているのだが、下層の悪魔たちの数は“無数”といえるほど数が多く末端までの指導が行き届いていないらしい。どれくらいの数が出てしまったのか不明だが、悪さの度合いが過ぎれば多少は処理しても仕方ないとの回答らしい。だが、まずやるべきことはその扉を閉めなければならない。
翌日仕事を早めに切り上げ、途中で妻を拾い上げ、神様に指定された場所へと急ぐ。到着して、とある百貨店前の道路端に車を寄せハザードをつけた。妻の眼に映ったものは高さ10mはあろうか分厚くて巨大な“鉄で出来たような両開き扉”が見えたのだ。妖怪アンテナはその方向に尋常じゃない圧迫感を感じ取っていた…その先は漆黒の闇だという。目の前をたくさんの車や人々が行き交っているビル街に誰にも知られることなく巨大な“それ”が存在している。あっけに取られたが、すぐさま扉に向かい、神様から教えられた呪文を唱える…それは音もなくゆっくりと閉じた。
白狐にふたりの休日までにT都に残っている精霊全てをA河川敷に集合させるよう指示を出した。他県にはまだ被害が及んでいなかったので、取り急ぎの処置だ。休日を利用しての大移動である。事前にS県C市の山々を取り仕切っている精霊の頭に連絡は取っていた。安全のために精霊のまわりを白狐たちが警護して見晴らしの良いA川づたいに上流を目指し、Fダムで合流する計画で実行に移した。当日早朝、ふたりでFダムに急いだ。少し到着が遅れてしまったが無事合流出来た…頭立ち合いのもと、受け入れ側のリーダーたちとT都のリーダーたちの挨拶が済み、それぞれに飛んで行った。ふたりは頑張ってもらった白狐たちと精霊の頭に後日改めてお礼に伺うと伝えて解散した。
“お礼”とは別に特別な方法ではない。お供え物のことである。お賽銭でもよいのだが、大抵は日本酒と肴である。彼らはその“気”を吸うのだ。あまり教えたくないのだが、“酒の気”は人気がある。人間の酒好きが旨い酒を飲んで満足するのと似ている。
後日、街の中を放浪している150cm位の“悪魔”に遭遇した…こちらに気づき、慌てて飛んで逃げていったが、その後ろ姿にはしっぽは気づかなかったが、小さな翼が確かに生えていた。下っ端は翼も小さいのかと苦笑してしまった…
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