第13話 神聖な存在

 ふたりが神様から“特殊な能力”を与えられてからというもの徐々に生活に変化が現れ始めた…これまで感じたことのなかった“気配”が分かるようになり、妻を介してこれまで見たことも聞いたこともない初めて知る“存在”たちに出会い、話をすることで見えなかった世界に驚きと新鮮さをおぼえるようになっていった。

 大切に扱われている神社や稲荷神社の境内(正確にいえば鳥居から一歩踏み入れた敷地内)は本来、完全なる“聖域”であり、不浄なものを寄せつけない特殊な“結界”で囲まれ守られているのだが、最近はルールを守ることの出来ない人間が犬などを連れて平気で散歩する始末…人間以外を境内に入れるのはご法度なのだ。ましてや連れて来た動物が便意をもよおし境内の地面を汚すことがあれば、すぐさま内側から結界が破れて聖域は消え去り、不浄の輩が入り放題になるのだ。知らなかったでは済まされない、神社は最悪な状況に置かれてしまうのだ。神社と公園を同じく考えている輩がいるのはとても嘆かわしい…神社をよく知る者が「鳥居から一歩入ると空気が変わる」と言うのは不可視である“神聖な結界の中(聖域)に入った”ことを肌で感じている証拠なのだ。

 神々の中には気に入った神社に住まわれている場合がある。存在を知らずにそこにたまたま行って願掛けをした人間は、神様がそれを聞く聞かないは別として神のエネルギーを浴びられただけでもありがたいもの、何かしらの恩寵にあずかるかも知れない。清潔で綺麗に管理されている神社・仏閣・教会などは神様にとっても(重なった空間に住まわれているのだが)、人間にとってもありがたい場所である。神社に限らず、もし行って気分が悪くなるような場所に出くわしたならばそれ以上近づかずにそこを離れればよい。

 当たり前だが、神社の聖域(ご神域とも)に入る際は、鳥居などの手前で一旦立ち止まり、そこに住まう神聖な相手に対し敬意を払い、きちんと頭を下げてから入場する。参道は両端どちらかを歩き(中央は神聖な者の通り道としてあける)、手水舎(ちょうずや)で両手と口をすすぎ清めてから、鎮座する社においては賽銭箱に(参拝者の気持ちとして)お賽銭を入れ、二礼二拍手をしてから、両手を合わせたまま心で自分の名前を名乗り、訊ねた理由を伝えて一礼、それから脇や少し離れた場所に下がるという一般参拝客と同じ所作を全部済ませてから、ふたりの場合は、そこに居られる神聖な相手と初めて言葉を交わすのが礼儀作法としている。

 朱塗りが特徴の稲荷神社、歴史ある風格を備えた稲荷神社には昔から白狐が住んでいる場合が多い。大抵は100年以上の厳しい修行を積んだ変幻自在な大きな白狐が取り仕切っている。稲荷は五穀豊穣の稲荷大御神に仕えている“眷属と呼ばれる白狐たち”が守っており、“やたらにお参りするのは良くない”と恐がる人間もいるくらいだが、ある意味特殊な形態は間違いないので挨拶をした後で彼らのお役目を伺ったことがある…厳粛に姿勢良く座ってこちらを見ている彼らは、願掛けに来る人間を観察して心に卑しい考えがないか心を見透し、願うだけでなく努力を惜しまないか真剣さを見極め、“きっかけ”というチャンスを与える。それに気づくことでその先どう転ぶかは本人の努力次第なのだが、そういう人間は大抵の場合努力を重ねた結果成功している。頑張ろうとする“きっかけ”を授けないことには何も始まらないことを意味するといえよう。信者や成功者からの貢物(お供え物…米・野菜・果物・酒など)に含まれる“気”は彼らに対して大切なお礼となっていることは世間にあまり知られていない。

 山にはあちらこちらに精霊が居る。渓流が流れていたり滝などがある場所など、マイナスイオンが満ちている場所にはたくさん精霊が居る。たくさん居るからこそマイナスイオンが満ちているともいえる。不可視の者たちにも人間同様、“力”のある者とさほどない者が存在しているが、山に住まう精霊たちも同じでたくさんのグループがある中で、それぞれ力があり話の出来る者がリーダーを務め、そうでない者たちをまとめている。皆で協力し合い木々の生育を手助けして潤った森を生成して綺麗な空気を産出しているのだ。

 ただ…森の木々が伐採される時、その木についている精霊は他の木々に移動(逃げる)するのだが、力がなく移動が間に合わなく逃げ遅れた精霊は宿ったまま伐採され木と運命を共にすることになってしまう…それは“死”を意味するのだが、人間とは違い存在自体が消失してしまう。ある日、山でたまたま雷に打たれた倒木を見た時、そんなことがあるのかと(消失していない)とても驚いたことがある。そこには精霊が焼きついて死んでいたのだ。昔、TVか雑誌で見た、原爆が爆発した際に放った光で“壁に焼き付いた人の影”を見た時と同じ衝撃をおぼえた。



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