ティード・ジルダール
ガマンも…、限界
バレンタイン:ティード×メリアルド【untitled Fairy tale_Replay】[if]
得意げに笑って、メリアルドが俺の目の前に甘ったるい芳香を放つ物体をチラつかせる。俺が甘い菓子が苦手な事を知っている筈なのに、なんの嫌がらせなんだ…。
「…俺が甘いの苦手なの知ってるよな?」
「うん!」
屈託なく笑って俺の質問に答えるから、俺は不愉快と無言で返す。すると、更に笑んで「これなら大丈夫だから!」と言って、俺の唇に触れる位置にまでそれを持ってくる。
「………」
「…ボクのチョコ、食べないって言うの?」
脅迫めいた語調で、あくまでも笑顔のままで彼女の唇が動いた。
真っ直ぐになんの悪意もない瞳が、俺の眼を見詰める。
メリアルドから一方的に詰められるこの状況、前にもあったな…。
何時だったか…、あの時の状況に似てる…。
俺も彼女もまだ子供で、メリアルドが玄関先で恋人と口付けしてたティーダの姿を目撃して、
あの時はメリアルドの勢いに面食らって、押し倒された挙げ句、無理やりされて…。
…なんか、ヘンなの。って宣ったんだったか…。
「…食べないの?」
メリアルドの面から笑みが消えて、悲しげなものに変わった。上目遣いでそう言うから、俺は仕方なく「……イタダキマス」と渋々答えて口を開いた。
口の中に放り込まれたそれは芳醇な味わいで、思っていたよりも甘くない。それが思わず言葉となって出た。
「…! 甘く…ない?」
「ふふっ、ビターチョコ。甘さ控えめミルク少なめのチョコなの。これならティードでも食べられるでしょ?」
「……あぁ、美味い」
「…ティードの為に用意したんだよ〜。ティーダと同じのだと食べられないもんね」
俺を気遣って、甘くないチョコレートをわざわざ別に用意してくれた事も嬉しかったんだが、それよりも少し照れたように笑う彼女の表情が堪らなく可愛く見えて、思わず口走ってしまったんだ。
「…メリア、キス…していいか?」
「……えっ?」
「…キス、……したい」
言った後で後悔したんだ。彼女との関係を壊してしまう一言を衝動的に放ってしまった事を。
でも、一度出た言葉は取り戻せない。
戸惑う彼女の笑顔が見ていられなくて、視線を外す。すると、俺の耳元で彼女が答えた。「…うん、……して」と。
驚いて彼女を見る。そこにあったのは柔らかく微笑む
彼女との初めてのそれは子供のお遊びだったが、二度目の口付けは…少し苦くて、甘い香りがした。
untitled Fairy tale Short Story Collection saAyu @saAyu_h
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