ティーダ・シルヴァウォルフ

チョコレートだけじゃ、足りない

バレンタイン:ティーダ×メリアルド【untitled Fairy tale_Replay】



 いつものように三人掛けのソファーに身を預け、可愛い彼女と読みかけだった本を読む。穏やかな休日の午後は、そんな満ち足りた空気と共に過ぎて行く。

 不意に彼女が立ち上がり、台所キッチンへ歩いて行った。小腹が空いたのか、お茶を入れに行ったんだろう。

 離れてしまった温もりに寂しさを感じつつ、発売されるのを楽しみにしていた人気作家の本を読み進めながら、不意に視線を上げる。目の前には、いつの間にか戻って来ていた可愛い恋人が居て、茶請けとして買って来たらしいチョコレートに舌鼓を打ち、満足そうに、そして、幸せそうに笑っている。


 そんな彼女の姿を眺める。


 その姿があまりにも愛らしくて見惚れてしまう。

 オレの視線に気付いて「…ティーダも食べる?」と言いながら、また、ひとつチョコレートを咥えて笑う。その姿に悪戯心が疼いて、オレはフフッと笑うと彼女に聞き返す。


 「…食べさせてくれるのか?」と。


 オレの返事に驚いた風に目を丸くして瞬きをする。その何でもない仕草が、また、可愛い。

 笑顔のまま彼女を見詰めれば、『仕方がないな〜』なんて表情かおで、オレのために箱の中から新しいのをひとつつまみ上げて、包み紙を剥がし、目の前に差し出す。


 細い指先ごと食べてしまおうか…。


なんて事を考えながら彼女を見れば、はにかんだ微笑みを浮かべて見詰め返している。

 その中には明確な照れがあって、その表情が堪らなくて…。彼女の指先のチョコレートを食べる振りをして、彼女の首筋に手を回し、彼女の顔を自分に引き寄せると…。


 オレは、彼女の咥えてるチョコレートを齧る。


 唇が、少し触れた。

 心地よい感触。

 口の中に広がる甘味が媚薬のようで…、快楽への欲求に身震いする。


 少し顔を離して彼女の瞳を見詰める。

 驚く彼女のそれが『ふふっ…』と笑んで、オレたちは口付けを交わした。


 ふたりの口の中のチョコレートが互いの中で溶け合って、やがて…甘味が消えても、絡め合ったそこには。


 変わらない甘やかな快感がいつまでも残っていた…。

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