第43話 砂の国の魔女とフォルター
フォルターはこぶ馬の背にまたがり、月夜の砂漠を進んでいた。
我が祖国は砂の大地に湧く泉(オアシス)を中心に広がる街3つからなる王国である。
王が住む中心の街は『ヘリケル』。
そこには石の国から呼び寄せた石工が築いたとされる巨石を使った王城があり、その城の火は夜でも遠方から視認できるため、砂漠を旅するものにとっての灯台のような役目も果たしている。
フォルターは月夜の闇の中にヘリケルの王城の明かりが微かに輝いているのを確認すると、こぶ馬の進む速度をあげた。
——-
ヘルケルの街の門も城ほどではないが、大く整った正方形の石をふんだんに使った重厚なつくりになっている。
その門に備え付けられた鉄の格子扉には煌々と輝く松明が灯っていた。
フォルターがその門の鉄格子の手前にこぶ馬を寄せると塀の上部から兵士が顔を覗かせる。
「名と目的を言え!!」
フォルターは名はなのらず、深く被ったローブフードをめくりあげる。
それを見た兵士は驚いた表情を見せたあと敬礼のポーズを取った。
「フォルター様!失礼いたしました!すぐに門を開けます」
ゴゴゴ••••
格子扉がゆっくり持ち上がり、フォルターはこぶ馬を門の中へ進める。
門を潜った先には白い石で出来た街が大通りに沿って広がっているのだが、フォルターの視線はその大通りの中央に注がれた。
そこには細やかな刺繍のフリルが見事な白いドレスを来た少女が佇んでいた。
薄暗いのでその表情はわからないが、松明の灯りで金色の髪は美しく輝いているようだ。
「ナノ••様。どうしてこちらに?」
こんな深夜にもかかわらず街の玄関口に嫌悪するナノが居る事に動揺してしまう。
しかし、表情にそれを出す事はない。
「それはわしのセリフじゃ。お主は今まで何処をほっつき歩いていたのじゃ?」
ナノと呼ばれた少女はその姿に似つかわしくない言葉遣いでフォルターに話を返した。
「私はナノ様の大切な魔法石を奪ったという男を追っておりました」
「ほう。それで石は取り戻せたか?」
ジトっとした目をフォルターに向けるナノ。
一瞬ブーストクオーツの事がバレているのか?と考えたが、バレていれば何と答えようがクオーツは奪われてしまうだろう。
ここは腹を括ってシラを切るしかないのだ。
「いえ、それが私が例のグラッドと言う男に追いついた時にはすでに魔法石はその男の手にはありませんでした」
ナノのジトっとした目が鋭さを増す。
「ほう。どういう事じゃ?では今は誰が持っている?」
「ミムスという男に奪われたという事はわかっているのですが••」
まるっきりの嘘をつけばそこを突かれて簡単に見破られるだろう。
雇ったミムスには実際に裏切られかけた。そして奴は既に土の中で死人に口はない。
絶対バレる事はないと自分に言い聞かせながら恐る恐るミムスの名をだした。
「ミムス•••? お前が使ってた冒険者じゃろう?」
「ミムスをご存知でしたか。実はミムスに協力を依頼していたのですが、魔法石を持ったまま行方をくらませました。
魔法石の価値に気づいたのかもしれません•••申し訳ございません」
「そうか。お前に回収を頼んだわけではないのじゃ、失敗しても構わんがミムスとやらがが何のためにその石を取ったのか?それを知らねばならんな。奴に石の秘密をバラしてはいまいな?」
「も、もちろんです。私もあの魔法石にどんな力があるのかは知りません。ナノ様の大事な石が取られたと言うお話しかお聞きしていませんので」
「うむ。それなら良い。
あの石には特殊な力が宿っておるのじゃ。われの近くにあればすぐに気づく。ではミムスとやらを探しに行くとするかの。
お前は、おらん間に溜まった執務を私が戻って来る前に片付けておくようにの」
「は、はい。ナノ様」
そういうと、突然、砂混じりの暴風が巻き起こった。
そして砂嵐がナノを包むように現れ、上空にのびる竜巻のようになり、そのまま空高く飛び上がっていく。
先ほどまでそこにいたナノはもういない。
どんな理屈かはわからないが、ナノはいつも砂の竜巻と共に移動するのだ。
「ふぅ••••」
思わずため息が出てしまった。
ナノはブーストクオーツの特殊な力を感じる事が出来るという。
しかし私の持つブーストクオーツの事を勘付いた様子はなかった。
ブーストクオーツの力の気配は微量で今回は気づく事が出来なかったのか?
それともこのクオーツの力が落ちているのか?いや、ミムスに偽物を掴まされた可能性も無いわけではない。
私がそれを知る術は、文献を調べブーストクオーツの力を扱えるようになるしかない。
我王国から魔女を追い払う。
そのためにブーストクオーツの力を是が非でも我手に入れなければならないのだ。
そう心に硬く誓いフォルターは王城へ歩みを進めた。
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