第39話 下山




山頂を降り始めた時に、チラチラと白いものが降ってきた。雪だ。


標高が高いこの辺りは夏でも雪が残る。

砂漠にいたのであまり気にならなかったが、もう夏は終わりだろう。


この険しい山脈を抜けてもすぐアランド王国に着くという訳ではない。石の国とアランド王国の間には大森林の湿地帯がある。

大河ナール川によって生まれたその森林地帯には国家と呼べない幾つもの民族集団が暮らしている。

中には好戦的なリザード人も暮らしていて、調査団もリザード人を避けて通った。

しかし、今回は全くルートが違うので僕の記憶は役に立たないだろう。


それにしても標高が高い山がこれだけ厳しいとは思わなかった。雪と一緒に風も強くなってきて指先が凍えそうだ。


「標高が高い山がこんなに寒いなんて思わなかったよ。グラッドはなんだか平気そうだけど寒さには強いの?」


「僕は暑いのより寒い方が苦手だけど、歩いてたら気にならないや」


「僕はもう寒くて寒くて死にそうだよ」


「この装備で雪の中で寝るわけにはいきません。早く山を降りましょう」


ライは冒険者としては本当に優秀だ。頭も切れるし雇って大正解だ。

グラッドが刺された事件でミムスと繋がっているかもと思ったけど、それなら山頂から石の国に帰っただろうし僕の杞憂だったみたい。


それよりもライが僕の国アランド王国の人間かもしれないという事が気になる。しかも剣の装飾と言い紋章と言い、おそらくかなり身分の高い人間だと思われる事が気になってきた。


何故そんな身分の高い人が、石の国で冒険者をしているのだろう。しかも1人でだ。


そんな事を考えていると、グラッドが別の疑問を持ったようだ。


「ライは何故アランド王国についてこようと思ったんだ?まあ、俺たちにとっては助かるんだけどな。バジリスクストーンの報酬だっていつ貰えるのかわからなくなるだろ」


グラッドの言うことももっともだ。何故報酬を後回しにしてアランド王国に付き添ってくれるのか?やはり故郷が•••


「そうだね。君たちが心配になったからかな。グラッド。君は死にかけたんだからね。

逆に聞くけどグラッドはなぜアランド王国にいくんだい?」


「ブーストクオーツを持って砂の魔女から逃げるため。だな。もうブーストクオーツはないけど、アランド王国まで行けば、いくらナノがブーストクオーツを取り戻してもあいつの呪いは届かない。

あとは、、。レイトの住んでいたアランド王国に興味が湧いた」


「そうか。レイトはアランド王国の出身だったな」


ライの言葉が少し沈んだ気がする。


「ライの事を詮索するわけじゃないけど、ライってアランド王国出身だよね」


僕は思い切って聞いてみる事にした。


「何故そう思うんだ?ああ、これか?この剣は知り合いから貰ったんだ。上等な剣だろう?」


「そ、そう」


こんな上等な剣をおいそれと人にあげる人がいるとは思えない。

もしこの剣が貰い物だとしたら、親友か親か近しいものだろう。とすればやはり高貴な家の出という事になる。

人から奪った可能性もあるけど、ライに限ってはそれはなさそうだ。


ライには何か素性を隠さなければならない理由があるのではないだろうか?


ーーーーーーー


山を降り始めたその日は、鹿や大きな猪を見る事はあったが、恐ろしい魔物や肉食獣に会う事はなく、雪が雨に変わる標高まで降りてくる事が出来た。


陽がもう落ちるという時に倒壊しそうなボロ家を発見した。

どうやら永らく人が住んでいないようだが、ここで雨をしのげるだろう。


「暖炉があるよ!!」

ボロ屋に暖炉がある事に僕は喜んだ。


「ここでなら雨をしのげるし、服も乾かせる。ここで一泊しよう!」


グラッドも屋根がある所で休めるのが嬉しいのだろう。声が踊っている。


もう僕は寒さと疲労でノックダウン寸前だ。冷たい雪もきつかったけど、冷たい雨はもっと嫌だった。

服に水が染みて身体が冷やされるから。


凍えた体を温めよう。

僕は早速汚れた小屋の暖炉に火を焚べた。


こんな時は暖かい食べ物が食べたい。

そう思って、暖炉の火で先日大量に集めた赤い木の実、カダナヒスの残りを取り出し炙って食べる事にする。


美味しい!!カダナヒスの実って本当に美味しい。

美味しくてとても幸せな気分になって体もポカポカするよ。


「このカダナヒスの実って美味しすぎない?

グラッドが2人に見えるくらいハッピーで美味しいよ」


「僕が2人って何いってる•••お前何食ってんだ?」


「カダナヒスの実だよ。グラッドの分もあるよ」


「レイト!!その実はカダナヒスの実じゃない!」

グラッドが大声を上げた。


「えっ?」

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