第30話 山頂へ向かう



 グラッドが目覚め、3人は再び山頂を目指した。

 ……ところが!



 『無い。無くなってる!』

「どうしたのグラッド。一体何が無くなってるって?」


 グラッドは鞄の中を確認していた。


 『レイト、ブーストクォーツが無いんだ。……ミムスの仕業だ。くそっ、あいつに奪われた。』

「ミムスが?」

『あいつは最初からナノと組んでたんだ。でもあいつの事だから、ナノを裏切ってブーストクォーツを売り飛ばすつもりだろう。かなり高く売れるだろうからね。』

「でもグラッド。それならナノの手に戻る事も考えなきゃ。」

「私がしっかりしていればこんな事態には……。」

「君のせいじゃないよライ。ミムスは機会をうかがってた。それに気が付かなかっただけだよ。ねぇグラッド。何か取り返す手立てはないの?ミムスは砂の国に向かったのかなぁ?」



 3人は話しながら山の中腹を過ぎ、更に山頂に歩みを進めていたところだった。


 『売るつもりなら石の国に戻る。ナノに忠誠を持っていれば砂の国に。……僕は石の国に向かってくれることを祈るよ。』

「石の国に行ったのなら売られちゃうんでしょ?」

『石の国ならミシャが何とかするさ、それのが好都合。ナノの手に戻ったら、それはそれで判断できるけどね。』

「判断できるってどうやって?ミムスを追いかけるにも、山を登るより簡単にはいかないんじゃない?……。」

『ナノの手に渡った時、魔力が増幅されてしまう。太陽がまだ高かったら、その時僕はケルチに姿が変わる。どう?判断できるだろ?レイトが見たくない姿をね。』


 グラッドは悪戯に微笑むと先に歩いて行った。


 「僕も石の国に向かうことを祈るよ。」




 一方、ミムスは石の国に入った。


 ミシャはシャーマンの姿に戻って、魔法石錬成工房にいた。


 レイト達の祈りが通じたのか、石の国にミムスが戻った。そして査定のためにミシャの工房のドアを叩いたのである。


 「この魔法石の査定を頼みたい。」


 ミシャはミムスが差し出した魔法石を見て直ぐに気が付いた。

(これはブーストクォーツ!グラッドが持っていたはず……。もしやこの男、グラッドから奪った?)


 「査定には時間を頂きます。明日また来ていただきます。それまでこの魔法石は預かりますわ。ではこれを。」

 言いながらミムスに預り証を渡した。


 「お客様。明日、預り証と引き換えに、魔法石とその鑑定書をお渡しします。」


 ミムスはいそいそと顔を綻ばせながら工房を出ていった。



 ミシャは階下にある魔法石の保管庫へ入っていった。

 保管庫はミシャの魔力で施錠されているため、ミシャのみ出入りが出来る様になっている。

内部の多くの棚には数々の魔法石がズラリと並んでいた。


 作業机風のテーブルにブーストクォーツを置く。


 「さて、偽物と悟られないように上手く作らなきゃね。」

ミシャは言いながら両掌をテーブルにかざした。

本物のブーストクォーツの隣には、偽物のブーストクォーツが形作られていく。


 「見た目は良し。これに少しの魔力を持たせて……。」

 更に両掌が光り、偽物のブーストクォーツに魔力が宿された。


 「こんなもんかしら。」

 ミシャはそれを手に保管庫を出ていった。

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