第28話 宵闇の中に



 深淵の宵闇の中に月が1つ。妖しげな光を放っていた。

 現在、山の中腹までは行かずとも既に標高は1000mを越えているだろう。テントの回りはライのお陰で安全ではあるが、もしかしたら破れるかも知れない、と思うと気が気ではなかった。


「ねぇ、ライ。ちょっといいかい?」

 少し話をしよう、と口にしてみたが何を話そうかと直ぐ様、後悔した。

「なんですか?」


「君の事についてなんだけ──」

「その事は、言及しないで下さい」

 口にした瞬間に返答してきたということは、やはり気にしていたらしい。まるで、警戒線でも張っていたかのようだ。


「わかった。でも──!」

 でも、これから僕はライ、君に対してどう接したらいいんだい? 女性としてか、男性としてか。はたまた、どちらでもないのか。それによって、これからの接し方が大きく変わってくる。

「じゃあ、最低限これだけは答えて。君は、何者として振る舞うんだい? 僕は、どう接したらいいんだい? 女性? 男性?」

「……私はギルドの方に性別を登録していません」

「うん、知っているよ」

「私の事は、男性として扱って下さい。詳しい事は話せません。今はまだ、信じられないかもしれませんが、信じて下さい。私は、貴方を裏切りません」

 だから、だから信じて下さい、そうライは何度も僕に頭を下げた。


「──大丈夫」

 ふと、僕の口からそんな声が漏れた。

「え?」

「大丈夫だよ。僕は、元々君の事を疑ったりはしていないよ。グラッドも言っていたんだよ、君は僕達に悪意を持っていないって。だから安心して。僕らも、君を裏切らない。君が裏切らない限りは」


「あ、ありがとうございます。では、──これからよろしくお願いします」

「あぁ、こちらこそ。これからが、勝負どころだよ」

 そう言ったライは、どこか顔が赤らんでいるように見えたが、きっと気のせいだろう。


 あぁ、グラッド。早く目が覚めないかな。

彼女、いや彼はとても綺麗だよ。


 月の光を反射する髪と瞳はまるで、神のようだよ。



 澄んだ群青の空には、点々と瞬く星が少しずつ浮かび始めていた。

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