第105話 無限迷宮

 『無限迷宮』の入口は、王都ルディナリアから海岸に沿って北東に歩けば辿り着けた。

 普通の人間の足でも三時間ほどの場所だ。


 冒険者ギルドが管理していないと言っていただけあり、周囲に人の気配はなく、何もない岩肌に突然大きく開いた入口があった。

 初めてそれを見た者はとても近づく気にはなれず、それが地獄へと続く大穴なのではと想像する者がいても無理はないと、第一印象でミズトは感じた。


(誰も利用しない意味が理解できるな。こりゃ入る気にはなれんわ)


【はい、ここは世界で最も危険なダンジョンです。今のミズトさんでも単独では第百階層が限界でしょう】


(百も行く気はないが、途中で『界』を使うようなモンスターが出たら逃げるからな?)


【それがよろしいでしょう。お気づきの事だと思いますが、スキル『界』の使用後に一定時間の能力低下が見られました。もちろん身を守るために数十秒程度の起動でしたら問題ありません。しかし限度時間である三分続けた場合は、能力値が半分以下に低下すると予測されます】


(ああ、なんとなく気づいてた。これからは『界』を使わないつもりだ)


【今後はレベル上げに力を入れ、通常能力が現状のスキル『界』使用時と同等まで上がることを目指しましょう】


(いやいや、目指さないから……)

 ミズトの価値観をなかなか学習してくれないエデンと話していると、たまにどっと疲れることがあった。


【ミズトさん、そろそろ一位との差が開いてきましたので、ダンジョンで戦闘を始めてください】


(ん? 何の話だ?)


【イベント中は、途中経過をリアルタイムで確認できるようです】


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 経験値収穫祭 ランキング

 順位  パーティ名      獲得

 1位  神楽1班        312,554

 2位  閃光の天使      290,196

 3位  日本卍会総長     243,281

 4位  もふもふ一丁目☆   238,952

 5位  神楽2班        232,804

 6位  ブルーベリーガーデン 159,060

 7位  日本卍会壱番隊    158,467

 8位  悠真と仲間たち    158,311

 9位  神楽3班        157,923

 10位 もふもふ二丁目☆    157,743

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 -位 天を超越した者      0

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(おお、リアルタイムでベスト10が見れるってことか。なんか楽しいかも。イベント参加者は状況が分かっていい感じだな。一番下の『天を超越した者』ってのは何だ?)

 ミズトは、エデンが表示したランキングを見上げた。


【一番下は現在のミズトさんの状況です】


(ん……? まさかその恥ずかしいパーティ名が……)


【はい、パーティ名『天を超越した者』は、クラス『超越者』であるミズトさんにとても相応しいお名前です】


(…………)

 エデンに任せていい事と、任せてはいけない事があるのを、ミズトは忘れていた。




 中に入ると、事前情報通り『無限迷宮』の難易度は高く、第一階層から合同で討伐に行った『テルドリス遺跡』と同レベルのモンスターが出現した。

 一般人が間違えて足を踏み入れでもしたら、大変なことになるかもしれない。


 しかし、当然のごとくミズトにとっては難なく倒せるレベルで、スキル『界』を使う必要もなく戦闘を続け、危なげなく階層を進んで行った。


【やはりこの『無限迷宮』は経験値を稼ぐことに適したダンジョンのようです。このままイベントを続ければ、五日後には久々のレベルアップが期待できるでしょう】


(レベルアップはどうでもいいが、せっかくだから上位に入って報酬の金は貰っておきたいからな)


 ミズトがダンジョンに入ってから、二時間ほど経過していた。

 自覚はしていなかったが、獲得した経験値は既に二位を大きく引き離しトップに立っている。

 これほど強力なモンスターを、ミズトほど短時間で討伐できる者はいないのだ。

 異界人いかいびとの中でミズトと競えるような者はいないのだ。


 このままいけばイベントクエストは、当たり前のようにミズトが一位になる。

 そのはずだった。




 <<随分と面白い者が紛れ込んだものだな>>




 ミズトの頭の中に、直接声が響いた。


(ん? エデンさん、何か言ったか?)


【いえ、何も申しておりません】


(言ってない? おかしいな……)




 <<これは千年ぶりに楽しめるかもしれん>>




(なんだ? エデンさんの声じゃないのか?)


【ミズトさん、強制転移が行われています。速やかに退避してください】


 エデンが言い終わる前に周囲が光に包まれ、ミズトの意識が薄れていった。

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