第104話 イベントクエスト

(イベントクエスト?)


【珍しいクエストが発生しましたね。これは異界人いかいびとならどなたでも参加できるオープンクエストです】


(一人じゃなく皆んなで参加するクエストってことか? へぇー)

 ミズトはクエスト発生マークに触れた。


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 ◆イベントクエスト発生◆

 クエスト名:経験値収穫祭

  五日間のパーティ獲得経験値の合計を競い合いましょう!

  ・パーティ単位で参加。

  ・明後日からの五日間で集計。

  ・対象時間は一日八時間。

  ・戦闘場所は任意。

  ・報酬はパーティメンバーで按分。

  ・報酬内容は順位により変動。

 報酬:経験値0~10,000,000

    金0~10,000,000G

    魔法具やクランアイテム等

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(どれだけ経験値を稼げるか勝負ってことか? 分かりやすくていいね。ん……? 報酬が1000万G!?)


【報酬は順位により変動となっていますので、1000万Gが支払われるのは一位のパーティのみと思われます】


(それでも1000万Gか……。こんなんで一億円ぐらい貰えるとか、すげえイベントだな)


【世界中にいる異界人が参加しますので、競争は激しくなると予想されます。また、ダンジョンなどで経験値を稼ぐということは、死者が出る可能性もあります】


(死者? そうか……そうだよな、ゲームじゃないんだ。参加するのも命懸けか……)


【ミズトさんは参加されますか?】


(いや……俺はパーティ組む相手もいないしな)


【お一人でもパーティ登録は可能ですので、ミズトさんでも参加できます】


(あ、そういうことか。なら、参加してみるかね。どんだけ頑張るかは分からんけどな……)


【かしこまりました。ではわたしの方で参加申請致します。登録するパーティ名はどうなさいますか?】


(パーティ名って『草原の風』とか『大樹の守護者』みたいなやつ? 何でもいいよ、適当に決めておいてくれ)


 ミズトはそう伝えると、クロを連れて宿を出た。

 明後日からやることが出来たので、心置きなく今日明日はのんびり過ごすことが出来そうだった。



 *



(無限迷宮ねえ。ずいぶん安直なネーミングだな)

 イベントクエストの初日、ミズトはどこへ行こうかエデンへ相談していた。


【はい、ミズトさんでしたら、ここ王都ルディナリアの近くにある『無限迷宮』が良いかと思います。その存在が発見されてから五百年、誰にも攻略することが出来なかった、この世界でも極めて特異な巨大ダンジョンです。五日間で攻略できるわけではありませんが、それだけ強力なモンスターがいるため、大量の経験値獲得を期待できます】


(誰にも攻略できなかったって、『エンディルヴァンド地下洞窟』も似たようなこと言ってなかったっけ?)


【あちらは発見されてからそれほど経っておらず、高レベルの冒険者が挑戦していなかっただけです。一方『無限迷宮』は様々な『到達者』が挑んだにも関わらず、攻略されていません】


(ふうん、そうなのか。巨大ダンジョンって言うが、地下何階まであるんだ?)


【第何階層まであるか解明されていませんが、二百年ほど前に全員『到達者』という史上最強パーティが第二百五十階層のボス戦で敗北した記録が残っております。今のところそれが最も深く潜ったとされています】


(二百五十って……行けたとしても五日で辿り着く場所じゃないな……)

 毎日街へ戻るつもりのミズトには、あまり関係なさそうだ。


 それからミズトは『無限迷宮』についての情報を求め、王都内にある冒険者ギルドを訪れた。


「申し訳ございません、ミズト様。『無限迷宮』に関わる依頼は、現在発生しておりません」

 受付の女性が、深く頭を下げた。

 B級冒険者であるミズトが相手のため、必要以上に丁寧な対応をとっているようだ。


「そうですか。では『無限迷宮』に入るためにはどうすればいいか、情報を売ってもらえないでしょうか?」


「それでしたら、お売りするほどの情報はございません。『無限迷宮』は極めて危険なダンジョンのため利用する方はおらず、冒険者ギルドとして管理はしておりません」


「冒険者ギルドの管理外? 入ろうと思えば勝手に入れるということですね……。分かりました」

 ミズトはダンジョン内の情報だけでも購入することにした。


 とはいうものの冒険者ギルドが持っていた情報は、役に立つほどのものではなかった。

 エデンから聞いていた第二百五十階層の記録があるという話と、第一階層からB級冒険者クラスの実力が必要なほど超高難易度、という点だけだった。

 情報料が100Gだけはある。


「お待ちください、ミズト様。まさか『無限迷宮』に行かれるのでしょうか?」

 立ち去ろうとしたミズトに、受付の女性が引き留めるように言った。


「はい、そのつもりです」


「!? あそこは地獄の奥底まで続いていると言われるほど、深く恐ろしい場所です! A級冒険者さえ足を踏み入れるようなことはありません! いくらミズト様でもお勧めすることはできません!!」


「なるほど、お気遣いいただきありがとうございます。ただ、深く潜りたいわけではありません。危険でしたらすぐに戻ってきますのでご安心ください」

 冒険者ギルドの受付はどこも冒険者の身を案じているのだな、と思いながらミズトは答えた。


「左様でございますか……。B級冒険者の方に出過ぎたことを申しました。ミズト様がそこまでおっしゃるなら、私共から言えることはございません」

 受付の女性は改めて深く頭を下げた。


「いえ、貴重なご意見、ありがとうございました」

 ミズトは冒険者ギルドを後にした。


(なあ、エデンさん。この世界に地獄なんてあるのか?)


【この世界でそのようなものは確認されていません。しかし、『無限迷宮』の最下層には何があるのかも判明していませんので、それに相当するような何かがあるのかもしれません】


(ま、何でもありな世界だからな)

 興味があって聞いたわけではないので、その話題はそこで切り上げた。

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