幕間

第102話 師弟システム

 討伐隊が王都ルディナリアへ帰還してから一週間が経っていた。


 冒険者ギルドへの報告は、取り纏め役のハロルドが行い、古代種を討伐したわけではないが、『魔物ち』したハイエルフのクラリスを救ったことで、依頼達成扱いとなった。

 ちなみに、冒険者ギルドからよくよく話を聞くと、第一次討伐隊が戦ったのは『魔物ち』したクラリスではなく、ダンジョンボスのエルダーリッチのようだった。


 報酬はギルドカードにて測定された貢献度によって決まってくるが、最も貢献したミズト達が三百万、次に勇者パーティが二百万、残りのパーティは百万ずつ支払われた。

 どのパーティも貢献順に不満はなく、むしろエルダーリッチ戦と堕クラリス戦では役に立っていない自覚があるため、喜んで報酬を受け取っていた。

 百万程度では大陸間の船賃にもならないんじゃないかとミズトは気にしたが、冒険者ギルドの依頼で来ていたノヴァリス大陸の冒険者は、船賃が発生しないという話だった。


 そして、ミズトはどうしているかというと、何故かこの一週間、セシルとクラリス姉妹、勇者パーティメンバー、合わせて五人の訓練に付き合わされていた。


 発端は勇者リアンだった。これから世界を救う自分が、ここでミズトと出会ったのは運命。ミズトの強さを少しでも吸収したいと、一週間だけでもいいから弟子入りを申し出たのだ。

 その場にいたセシルとクラリスも、これからの事を考えると自分たちも強くなっておきたいと、勇者リアンの提案に興味を持った。


 もちろんミズトは提案を拒否した。

 少年心をくすぐる勇者が相手とはいえ、会ったばかりの他人にそこまでする義理はないのだ。

 セシルとクラリスにしても、強くなってどうするのか懸念を抱いた。村を滅ぼした魔族と戦うつもりじゃないかと、軽く心配になったのだ。


 しかし、自分の使命を信じる勇者リアンは、退くことを知らなかった。

 冒険者ギルドの中でどれだけ騒ぎになり、どれだけ注目をされようと気にもとめず、自分が強くなるためにミズトの弟子入りを懇願した。


 ミズトにとって更に悪いことに、師弟システムを利用し勇者リアンと師弟関係を結ぶことが、限定クエストとして発生してしまった。

 そうなるとエデンが勇者リアン側についてしまうのだ。


 セシルとクラリスも、魔族と戦うわけではないと、引き下がろうとしなかった。

 これから二人で、生き残りのハイエルフを探す旅に出ようとしている。だがクラリスは魔物だった頃と違いレベルが63と低く、この十年のブランクを埋めるため、旅に出る前に訓練しておきたいと言うのだ。


 結局決め手は、セシルとクラリスだった。

 クラリスは自分が『魔物ち』し、村を、両親を自分の手に掛けたことをセシルから聞いた。それがどれほどショックなことか理解するには、ミズトの想像力では足りないぐらいだろう。

 それでも彼女は気丈に振る舞い、笑顔で仲間のハイエルフを探しに出たいと言った。

 そして、その姉をそばで支え続けたいと、セシルが言った。


 二人の力になれることを、ミズトが拒否し続けられるわけがなかった。

 そもそも、ミズトはセシルとクラリスに強く頼まれれば、断ることができなくなっているのだ。

 たった一週間でどれほどの意味があるか分からなかったが、それぐらいならとミズトは了承した。


 訓練の内容は、師弟システムで五人を弟子にし、模擬戦をするだけだった。

 エデンの説明では、本来は師弟でパーティを組んで一緒にダンジョンへ行くと、一時的に能力が底上げされる仕様なのだが、仕様を知らない勇者リアン達はミズトとの模擬戦を望んだ。


 ところがただの模擬戦のはずが、師弟システムにより経験値が入ることが分かった。

 セシルたちは異界人いかいびとではないので、ステータスを自分で確認できないが、訓練初日に全員レベルアップしたことにミズトが気づいたのだ。


 それからたった一週間で、セシル、勇者リアン、剣聖ギルバート、聖女オーレリアは5レベルアップし、クラリスは10レベルもアップした。

 そして、もう一つとんでもないことが起きていた。


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 セシル・フルール LV81

 種族 :ハイエルフ

 加護 :水の精霊

 クラス:エレメンタルシューター(熟練度8)

 ステータス

  筋力 :D

  生命力:C

  知力 :B(+D)

  精神力:C(+D)

  敏捷性:B(+C)

  器用さ:C

  成長力:C(+A)

  存在力:C

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 成長力の補正に全員+Aが付いていた。


【成長力は私のデータにはなく、ミズトさんしか見ることが出来ない項目ですが、今まで出会った中で成長力Aは世界騎士ロードのアレクサンダーさんと、勇者のリアンさんのみ。そこから想定すると、成長力Aは『到達者』、つまりレベル90を越える才能を意味すると思われます】


(レベル90を越える才能?)


【はい、ミズトさんしか気づくことすらありませんが、師弟システムはとてつもない可能性を秘めたシステムのようです。しかしそれはとても危険なシステムとも言えるでしょう。歴史上『到達者』になれたのは限られた特別なクラスの者のみ。それがミズトさんの弟子になることで簡単になれるとすれば、世界の混乱を招きかねないのです。可能な限り師弟システムの利用は控えるべきです】


(なるほど、エデンさんの言う通りだな。一応、セシル達にもこの事は言わずにおこう)


 師弟システムは師弟いずれかが異界人いかいびとである必要がある。

 そのためこの世界の人たちが利用することはほとんどない。異界人いかいびとですらほとんど効果がないため利用することは少ないと、王都ルディナリアで出会ったシュンタ・ナカガワが言っていた。


 エデンが言うように成長力の項目が見えるミズトしか気づくことはできないが、才能を底上げする効果が本当にあるとすれば、この世界での異界人の存在意義が、大きく変わることになる。


異界人いかいびとだけのシステムか……)

 ミズトは、自分がこの世界の人間だったら、きっと異界人いかいびとのことは好きになれないだろうと感じていた。

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