第100話 解呪
(なあ、エデンさん。スキル『界』の稼働時間はどのぐらいだ?)
【およそ三分が限界です】
(三分か。正義のヒーローみたいな時間だな)
【ミズトさんはこれからセシルさんを、そして世界を救うかもしれない戦いをなさいます。正義のヒーローと言っても差し支えないでしょう】
(はは……世界を救うことなんて興味ないが、知り合いの女性を救うために、人生一回ぐらいはヒーローの真似事も悪くないな)
【はい、戦う理由はそれで十分かと】
(人生で一回ぐらいだぞ?)
【はい、十分です】
(最初で最後って意味だぞ?)
【はい】
(……さて、全力でいくぞ)
「スキル『界』、起動」
ミズトの全身が淡い光で包まれた。
ミズトはそれと同時に雷撃のごとく魔物へと突進する。
再生が終わっている魔物はミズトの力を感じとったのか、警戒を強めるように触手の数を数倍に増やし、近づいてくるミズトを迎え撃った。
対するミズトは触手を避けることはせず、少しでもダメージを与えようと全て斬り落としていった。
一振り一振りの威力が高いため、一度に数十本の触手を薙ぎ払っている。
無限とも思えた無数の触手が、ミズトの前では呆気ないほど数を減らしていった。
そして、無防備となった魔物の本体に辿り着くと、その勢いのまま『女神の銀剣』で魔物の中心部を貫いた。
「グオオオォォォッ!」
魔物の口が見当たらないため、声かどうかも分からない悲痛な音が辺りに響く。
「すげえどころの騒ぎじゃないぞ、ギルバート」
勇者リアンは、隣に立つ剣聖ギルバートを見もせずに続けた。
「俺は勇者だ。この世界の誰よりも才能に溢れ、このまま『到達者』に至る頃には、名実ともに世界最強になっていると疑いもなく信じていた。だがどうだ、例えレベル99になったとしても、俺はあの人の背中に追いつける気がしねえ。あの人は限界を越えた領域、レベル三桁の世界に住んでいる人かもしれねえ」
リアンは拳を強く握り締め、巨大な穴の開いた魔物をじっと見つめていた。
魔物はすぐに再生を始めた。
大きく開いた穴を塞ごうと肉が盛り上がってくる。再生に優先順位があるのか、本体が再生中に触手は再生されないようだ。
ミズトはそれを許さないよう追撃を加えた。
セシルの姉の身体とおぼしき場所は避け、それ以外を一瞬で斬り刻んだ。
【ミズトさん、今です】
(ああ)
ミズトはマジックバッグから聖水を取り出し、魔物に浴びせた。
「聖女さん! お願いします!」
「はい、準備は完了しています!」
ミズトの合図を待ち構えていた聖女オーレリアは、祈りの体勢のまますぐに浄化スキルを開始した。
すると周囲一帯の地面から大量の光の粒が浮き上がってきた。
そして、魔物にそれが集まると強く光りだす。
「親愛なる女神アルテナ様よ、聖なる光で
魔物に集まった光が更に輝きを強め、辺りが真っ白な光に包まれた。
*
【どうやら成功したようです】
光が収まるまで一分ほど掛かった。
周囲の景色が見えるようになると、エデンがそう言った。
ミズトは目の前にいた魔物の代わりに、衣服を着けていない女性が倒れていることに気づいた。
すぐにシーツをエデンに出してもらい、彼女に被せる。
(生きているのか?)
【はい、眠っているようですが、命に別状はありません】
(そうか、良かった……)
大きく安堵すると、重い足取りで一歩ずつ近づいて来るセシルの姿が目に入った。
「ね、姉……さん?」
いつもの素早い身のこなしと打って変わり、足に重りでも着いているかのように、やっとの思いで足を前へ出している。
「あ……ああ……姉……さん」
セシルは両手を前に出し、少しずつ少しずつ姉との距離を詰める。
「ん……んん」
セシルの姉が意識を取り戻し、上体を起こした。
「クラリス姉さん!!」
それを見ていたセシルは、重りが外れたように走り出し、姉に飛びついた。
「セ……シル?」
「姉さん! 姉さん! 姉さん! 姉さん!」
「セシル…………なの?」
「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
セシルは姉の胸に顔をうずめ泣きじゃくった。
四十を過ぎたあたりから
自分にとっては二人とも赤の他人。
家族どころか友人ですらなく、生きてきた世界がまさに言葉の通り違う。
それでも、再会を果たした姉妹を見て、ミズトは大きく感情が揺さぶられていた。
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◆限定クエスト完了◆
報酬が支給されます。
クエスト名:セシルの悲願
報酬:経験値10,000
金1,000G
クランの紋章
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