第99話 方法

 その様子を、討伐隊のメンバーは身動き一つできず、固唾を飲んで見守っていた。


「すげえよ、あの人……。勇者の俺が、まったく入り込めねえ……」

 ミズトの放つ魔法が地響きとなって伝わってくる中、勇者リアンが恐怖と憧れの混ざった表情で言った。


「勇者リアン殿、おぬしの言う通りだの。あれはB級どころか、A級冒険者でも敵わぬ相手。この戦い、もはや『到達者』のレベルぞ」

 『大樹の守護者』リーダー、ハロルドはただの見学者のように感想を漏らした。


 散々粋がっていた『氷雪旅団』のジェイクも、剣聖ギルバートも、借りてきた猫のようにおとなしく、もはや言葉は出ないようだった。


「待ちましょう。ここはあの方の使い魔が守ってくださっています。私たちの出来ることは、あの方の邪魔にならないよう待つことのみです」

 全員の回復を終えた聖女オーレリアは、座ってクロを撫でながら言った。




「本体はクソ硬いな、おい」


 ミズトの放つストーンバレットは、無数に襲ってくる触手を破壊し、その再生を上回る速度でさらに破壊しつくした。

 そして魔物本体へも、何度も魔法を撃ちこんでいる。


【触手に対する威力と同じでは、本体へダメージを与えることは難しいようです】


(分かってる。こんなに魔力を込めるのは慣れてないから手間取ってるだけだ。まだ威力を上げてやるから見てろ)


 更に威力を上げたミズトの放つストーンバレットが、魔物本体の一部を破壊した。

 その威力は衝撃波となって周りに伝わり、遠く離れた場所でも地震のように感じるほど強力だ。


「うおぉぉぉぉぉぉっ!」

 破壊と再生を繰り返すその光景は、見るに堪えないものだったが、ミズトは手を緩めることなく魔法を放ち続け、魔物本体を大きく削った。


【ミズトさん、分析が完了しました。あの魔物は再生する際に闇属性の力が下がります。それを利用することで解呪が可能です】

 五分ほど本体へ攻撃を続けていると、エデンがそう告げた。


(なに? 要するにいけそうってことだな。具体的には何をすればいいんだ?)


【まずはあれの再生力を遥かに上回る攻撃で瀕死の状態まで持っていってください。あれが再生に全生命力を転じた瞬間、ミズトさんの持つ最高品質の聖水で更に闇属性を低下させます】


(聖水? そういえば使い道が分からなくても、素材が揃ってれば試しに作ってたな)


【はい。闇属性を最大限まで下げることができれば、あとは聖女の固有スキル『浄化』で解呪可能です】


(そうか……それで……セシルの姉さんを救えるんだな。よくやった、エデンさん。これで出直さなくても済みそうだ)


【これでミズトさんが優しさモード中のうちに、解決できそうです】


(ん?? 優しさモード? 急に変な表現するな……)


【ミズトさんは感情の状態で判断が大きく変わる傾向があります。優しさの感情が大きい今のモードのうちに片付けてしまいましょう】


(ちょっと……それって……)


 ミズトは、突然飛んできた弓矢に言葉を止め、魔物に当たる直前で叩き落した。


「ミズト! 邪魔しないで!」

 撃ったのはセシルだった。


【セシルさんの攻撃は、あれに命中したところで意味はありません】


(いや、そういうことじゃなく、セシルにはあれを攻撃してほしくないんだよな)


【たとえ傷をつけられなくても、姉に向けて攻撃することを止めたいのですね】


(ま、そういうことだ。どうしても気に食わん)

「セシルさん、少し失礼します」

 ミズトはそう言って、セシルを抱きかかえた。


「え? ちょっと、ミズト? 何?」


「一旦、聖女さん達のいる場所へ下がります」

 ミズトはセシルを抱えたまま移動すると、聖女オーレリアの近くに降ろした。


「何するの、ミズト! 私はあれと、戦わないといけないの!」


「セシルさん、もう、お姉さんとは戦わなくていいのです」

 ミズトは抑え込むようにセシルの肩に手を置いた。


「何を言っているの!? あれは、私の手でって」


「セシルさんのお姉さんは助かります。あれは呪いですので、呪いを解けば助かるんです」


「え? え? 呪い? 姉さんが……助かる……?」


「はい、呪いを解く方法がありました。セシルさんに渡された、これが役に立ちそうです」

 ミズトは、セシルから貰った『女神の銀剣』をマジックバッグから取り出した。


「そんなわけ……だって姉さんは……そんなこと……」


「大丈夫です。お助けしますので」


「本当……? 本当に……姉さんは助かるの……?」


「はい、必ず、助けます」


「でも…………ミズト……お願い……姉さんを…………たすけて」


「はい、喜んで」

 子供のような泣き顔を見せるセシルに、ミズトは笑顔で返した。


「聖女さん、『浄化』のスキルは使えますね?」

 ミズトは傍らにいた聖女オーレリアに訊いた。


「え? はい、もちろん使えますが、私の『浄化』ではあれには……」

 聖女オーレリアは困惑した表情で答えた。


「いえ、大丈夫です。使うタイミングは私がお伝えしますので、どうかセシルさんのお姉さんを救ってください」


「セシルさんのお姉さま? …………分かりました、あなたを信頼していますので、いつでも使えるよう準備してお待ちしております」


「助かります。――――ではセシルさん。荒療治なので、お姉さんには少し苦しい思いをさせるかもしれませんが、ここで見ていてください。すぐに戻ります」


「…………」

 セシルは言葉を発せずにコクっと首を振った。


 それからミズトは『女神の銀剣』を抜くと、魔物へ向かって歩き出した。




「ギルバート」

 勇者リアンが剣聖ギルバートの元へ歩み寄った。


「……」


「俺たちはこれから、きっととんでもないものを目撃することになるぜ。それは俺たちが目指すべき姿だ。一瞬も見逃さず、目に焼き付けておこう」


「……」


 剣聖ギルバートは何も答えなかったが、幼馴染みの勇者リアンは、親友が自分と同じ気持ちであることは分かっていた。

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