第96話 出現
「セシルさん、ここは私に任せていただきます」
ミズトはセシルより前に進み出ると、
「ストーンバレット!」
いつもより大きな石が、いつもより速い速度で飛び出し、ストーンゴーレムの上半身を吹き飛ばした。
「ミズト……?」
「セシルさん、目的までもうすぐです。こんな前座は、さっさと終わらせてしまいましょう」
ミズトは自然にほほ笑んでいた。
それから、ミズトたちは少しの間、他のパーティの戦闘を手を貸さずに見ていた。
もちろん意地悪をしているわけではない。それぞれ苦戦しているので、手を貸す必要がないわけでもない。
ただ、どこかにいるはずの、古代種に警戒しているのだ。
(なあ、エデンさん、強力なモンスターの気配なんて見当たらないんだが)
【この遺跡はダンジョン化されているため、ボス部屋のようにミズトさんでも察知できない事があるようです】
(そうか……。なら、とりあえずボスを倒しておくか。ボスを倒したら出現するとか、あるかもしれないしな)
ミズトは戦っている討伐隊のメンバーから目を離し、セシルに声を掛けようとした。
その時だった。
それは何の前触れもなく、あまりにも唐突に戦場の中心に現れた。
「!?」
ミズトはその気配にすぐ気づき振り向いたが、それと同時に全方位の闇属性攻撃魔法がそれから放たれた。
【ミズトさん。緊急でスキル『界』を起動します】
エデンの言葉に合わせるように、ミズトの身体が淡い光の膜で
「セシルさん!」
ミズトはそのまま目の前のセシルに立ち塞がり、魔法からセシルを守った。
ミズトの使ったスキル『界』は、全身を覆った光が物理攻撃および魔法攻撃を遮断する。さらにはミズトの身体能力を一時的に向上させる、クラス『超越者』の固有スキルだ。
ミズトのスキルのおかげで、セシルには魔法は届かず無事だった。
討伐隊メンバーを探すと、戦場の中心から離れた場所まで吹き飛ばされ倒れているのが見える。
感じる気配からは、瀕死な者もいたが、辛うじて死者が出ていないことは分かった。
(クロは!?)
ミズトは慌てて近くにいたはずのクロの姿を探した。
あの勇者にさえ重傷を負わせる攻撃。
クロがどこまで吹き飛ばされたのか心配になったが、それを
「クロ……おまえ……」
「ワン!」
クロは球型のバリアのような光に包まれ、元気に吠えた。
【クロは『界』に近い防御壁を張ることができるようです。ミズトさんの加護による恩恵と思われます】
(マジか……なんて有能なんだ……)
ミズトは思わずクロの元まで歩き、撫で始めた。
その横で、セシルの様子が明らかに変わっていった。
「やっと……やっと見つけたわ……。あれから十年……これをどれほど…………。お父さまとお母さまの
セシルがそれに向かって走り出した。
「え!? ちょ、ちょっと」
【お待ちください、ミズトさん。討伐隊の回復が優先です。聖女オーレリアさんだけでも回復を】
セシルを追いかけようとしたミズトを、エデンが引き留めた。
「チッ。クロ! セシルさんを頼む!」
ミズトはそう言って聖女オーレリアの姿を探した。
クロはミズトの声と同時に、セシルの後を追って走り出した。
それを確認したミズトは、聖女オーレリアの元へ移動し、意識のある彼女に中級ポーションを飲ませた。
「ミ、ミズトさん、ありがとうございます……。これは中級……?」
聖女オーレリアは起き上がると、ポーションの効果の高さに驚いている様子だ。
「聖女さん、すぐに皆さんを集めて来ますので、回復をお願いします」
ミズトは聖女オーレリアに言うと、近くに倒れている者から順番に、討伐隊のメンバーを次々と聖女オーレリアの元に運び始めた。
(くそっ、皆バラバラに飛ばされて、集めるのが面倒だ)
ミズトには珍しく、焦りの色が見えた。
負傷者を集めながら、戦っているセシルの様子を窺うと、クロが防御壁の大きさを変えてセシル全体も光の球体で覆って守っていた。
おかげでそれの攻撃を何とか防いでいるのだが、それでもセシルにダメージは届いているようだ。
このまま放っておくのは危険だった。
彼女が戦っている相手は、いったい何なのかはよく分からなかった。
ミズトの知っているモンスターではなく、バケモノという表現の方がピッタリくる。
手足はなく、ただの黒い肉の塊に何個も眼玉が浮き出ている。
ビルのような巨大な身体から生えた無数の触手が数十メートルにも伸び、遠距離攻撃をしているセシルや、召喚されたフェンリルとウンディーネを襲っていた。
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