第95話 古代種出現エリア
それからというもの、ミズトの実力を目の当たりにした討伐隊のメンバーは、ミズトに何かを言う者はいなくなった。
いや、それどころかメンバー内のいざこざも起こらない。誰もがほとんど余計なことを話さなくなったのだ。
『氷雪旅団』のメンバーに至っては、意識してミズトから離れているようにさえ見えた。
その後の戦闘は、当然ミズト一人に戦わせることはなく、全員で協力してモンスターを倒していった。
B級冒険者だけあって戦いの練度は高く、ほとんど共闘が初めてのはずが、大して時間も経たないうちにパーティ間でも連携をとって戦うようになった。
とくに目を引いたのは勇者パーティの強さだ。
レベルが65と討伐隊内では低く、三人しかいないパーティにも関わらず、いつも全力で戦う勇者リアンが率いる勇者パーティは、他のB級冒険者パーティより明らかに格上だった。
エデンによると、クラス補正の高さと、様々な高性能スキルの恩恵で、レベル+20ぐらいの能力になっているようだ。
(つまりレベル85ぐらいの強さだってことか?)
【その通りです。彼らはA級冒険者の中でも上位に入る強さです】
(なるほど。でも、勇者っていうなら、それでも足りなくないか?)
【はい、勇者は魔王に対抗できる唯一無二の最高クラス。リアンさんはまだまだ成長途中です】
(魔王なんてのもいるのか……)
ミズトは討伐隊の中で抜きん出た戦闘力を見せる勇者リアンを横目に、目立たないよう最後尾で戦っているフリをしていた。
*
討伐隊が古代種出現エリアに到着したのは、翌日の昼頃だった。
他と同じように
想定していたとおり、それまでにかなりの数のモンスターと遭遇したが、古代種討伐のために集められたメンバーは、誰ひとり傷を負う者すらなくここまで来ていた。
「ハロルドさんよ、あれが古代種ってやつか?」
討伐隊の先頭を歩いていたジェイクが足を止め、待ち受けていたモンスターを見つけて言った。
「あれはエルダーリッチのようだのお。となると古代種ではなくダンジョンボスだ」
「ダンジョンボス? ケッ、そういうことか。
「氷雪旅団の、おぬしの言うとおりだ。戦闘中に古代種が現れたら厄介だ。簡単ではないが、可能な限り早く倒すしかないの」
ハロルドは目で皆に同意を求めた。
(なあ、エデンさん。ダンジョンボスと目的の古代種は別ってことか?)
【はい。目的の古代種はユニークモンスター。一体しか存在せず、一度倒せばもう現れることはありません。しかし、この遺跡はダンジョン化されているため、何度も出現するダンジョンボスが別に存在します】
(なるほど。で、あれがダンジョンボスの方ってことね)
ミズトの目線の先には、エルダーリッチ一体とストーンゴーレムが三体立っていた。
エルダーリッチはレベル86。ローブと杖を身に着けた、スケルトンメイジのように魔法使いの装備をした骸骨だ。
三体のストーンゴーレムはレベル76で、名前のとおり石を素材にしたゴーレムだ。
(ゴーレムって、魔法使いが作った動く人形ってイメージなんだけど、俺でも作れるか?)
【ゴーレムはミズトさんのイメージの通りです。ただし、ゴーレムを生成する魔法を習得できるのは上位クラスの『ウィザード』になるので、ミズトさんには無理です】
(そういえば、習得できるのは全ての基礎クラスのスキルや魔法だっけか……)
ミズトは器用貧乏という単語を思い出していた。
ボスとの戦闘は、『紅い霧』『深緑の
ボス戦だけあるのか、ただの取り巻きのはずであるレベル76のストーンゴーレムが、想定以上に強いようだった。
『紅い霧』『深緑の
エルダーリッチ戦も同様に、『勇者パーティ』のメンバーは善戦しているが、『大樹の守護者』と『氷雪旅団』はほとんど戦力になっていない。
どうやらB級冒険者の討伐隊では、そもそもが力不足だったようだ。
「ボスの強さが異常だわ……。やっぱり、あれがいるようね……」
セシルがストーンゴーレムと距離をとったまま
「ボスの強い理由があるということでしょうか?」
事情を知っていそうなセシルに、ミズトは思わず尋ねた。
「ええ、そうね……。これから相手をするあれは、周囲の闇属性を強化する特性を持っているの……」
(あれ? 目的の古代種ってやつか。でもストーンゴーレムは地属性だけど?)
【ゴーレムを生成したエルダーリッチが闇属性ですので、生成者が強くなれば生成されるゴーレムも強くなります】
(なるほど。それにしてもセシルが急に落ち込んでるように見えないか?)
【落ち込んでいるというより、緊張されているのではないでしょうか? 今までのセシルさんの行動が、全て古代種と戦うためのものでしたら、どれだけ思いが込められているかミズトさんにも理解できるはずです】
(そうか、そうだったな…………)
ミズトはセシルと出会ってからのことを思い返していた。
セシルの目的までは知らなかった。どうしてそこまで強い思いがあるのかも聞いてはいない。
しかし、どれだけ強い思いを持っているのかだけは、ミズトは知っているのだ。
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