第94話 示した実力
(なんだか疲れるな……。なあ、エデンさん、俺は実レベルが11だから習得できる魔法がそれしかないんだよな?)
【そんなことはございません。今のミズトさんは、魔法使いが習得可能な全魔法を習得できます】
(は? 聞いてないけど?)
【全魔法と言っても、魔法使いはあくまで基礎クラスですので、普通の方でもレベル30で自属性はだいたい習得可能です。ただ、魔法の威力を操作できるミズトさんにとって、あとは意味のない魔法です】
(ん~…………)
例えそうだとしても、体裁的には習得しておいた方が良かったんじゃないのかとミズトは思っていた。
それから、戦闘を見せるしかなくなったミズトは、セシルと共に討伐隊の先頭を歩いた。
エデンの言うように実力を見せつけようと思っているわけではないが、この状況を打開するには多少は戦えるところを見せるしかないのだ。
「おうチビ! 怖くなったら逃げてもいいんだぜ!」
歩いていると、ちょくちょくジェイクがちょっかいを出してくる。
「ありがとうございます。参考にさせていただきます」
「ケッ…………」
ミズトが冷静に返すと、ジェイクは追撃まではしてこない。
結局、船のある場所から三十分ほど歩いて、初めてモンスターと遭遇した。
「おい、やっと来たぞ! 頼むぜ、チビ!」
ジェイクが少し楽しそうに言った。
現れたのは一つ目の巨人、レベル60のサイクロプス三体だった。
十メートルは軽く越える大きさがあり、どれも巨大な
「ミズト、頼んだわ」
セシルが簡単に言うと、ミズトは何も言わずに
ミズトの戦い方は、ドゥーラの町を出てから何一つ変わってなかった。
『万能冒険者』のクラスを持っているためどんな武器も扱え、全属性の魔法も習得していたが、『ストーンバレット』だけで戦ってきた。
石を飛ばすだけの魔法だが、威力も調整でき、連射や同時発射もできるミズトにとって、使い勝手の良い魔法なのだ。
この魔法だけで倒せなかったモンスターは、『ドラスヴェイル古代坑道』のダンジョンボスだけだった。
【ミズトさん、まだ撃たないのでしょうか?】
それなりに近づいても魔法を撃たないミズトに、エデンが訊いてきた。
(ああ。俺の実力を示すってなら、簡単に倒したらもう一度とか言われるかもしれないだろ?)
ミズトは面倒そうな表情で言うと、サイクロプスの目の前まで来て立ち止まった。
「お、おい……あのチビ何やってんだ?」
討伐隊の誰もがミズト一人で倒せるわけないと、苦戦し逃げ出す姿を想像していたのだが、理解できないミズトの行動を見て困惑していた。
「危ねえ!」
サイクロプスがミズトへ攻撃を仕掛けるのを見て、誰かが叫んだ。
ミズトはサイクロプスの槌を難なくかわした。
それを機に三体とも巨大な槌をミズト目掛けて叩きつけてくるが、全てギリギリで避ける。
まるで三体が餅つきでもしているかのように、サイクロプスは意味もなく何度も何度も地面を叩き続ける滑稽な姿を見せつけた。
「俺様はいったい何を見てるんだ……?」
討伐隊メンバーは見れば見るほど困惑を強めた。
「フフ……フフ……」
誰も気づいていないが、セシルが笑いを堪えている。
「すっげえぇぇっ!!」
そんな中、勇者リアンが突然大声を上げた。
「マジすげえ! なあ、ギルバート、見てるか? あの人、わざとギリで避けてるぜ! 魔法使いだってのに、一流剣士みたいな動きじゃん! ギルバートでも出来ないんじゃねえか!?」
「な、何を言うか! この剣聖が出来ないわけなかろう! あんな巨体からの攻撃なんぞ、誰にでも避けられる」
「そうか? だってあの人、飛び散る石の破片も一緒に避けてるぜ? あんな真似、誰でも出来るもんじゃねえよ!」
勇者リアンは、剣聖ギルバートの肩に手を回しながら、楽しそうに言った。
【ミズトさん、どうやらやり過ぎたようです】
(やり過ぎ? だってこいつら動きが遅えから、誰でも避けられるって思われそうじゃないか?)
【そうでもありません。ミズトさんの能力に気づきだしている者もおります】
(なるほど、ならこの辺で十分みたいだな)
ミズトは飛び上がり、サイクロプスの数倍の高さまで到達すると、
「ストーンバレット」
三発同時に石を放ち、三体の頭を吹き飛ばした。
「!!!???」
討伐隊の時が止まったかのように、消滅していくサイクロプスの姿を見ながら、驚きすぎて皆が立ち尽くしている。
「すみません、このぐらいで良さそうでしょうか?」
何故か進んでこない討伐隊に、ミズトは仕方なく自分から近づいて話しかけた。
「ミ……ミズト。君はいつも、こんな戦い方……なのか?」
『大樹の守護者』リーダーのハロルドが声を詰まらせた。
「いえ、もちろん普段は近づく前に魔法を使用します。今のは、自分の身を守れることを証明しようと、少し防御に徹してみました」
「そ、そうか……」
「いかがでしょうか? まだ戦いをお見せする必要はありそうでしょうか?」
ジェイクを見ると、視線を合わせようとしない。
「い、いや、皆に聞くまでもない。十分だ……」
ハロルドは答えた。
「すげえじゃねえか、あんた!」
ハロルドの言葉を切るように、勇者リアンが入り込んできた。
「どうも、恐縮です」
「
「いえ……剣聖殿にそんな、おこがましいです……」
(こいつ何言ってんだ? いつの間にか肩に手を回してきやがって、気持ち悪い)
「いやあ、マジで凄かったな! 魔法の威力もとんでもねえし! クローイの婆さんが見てたら、何て言ったかな!?」
「クローイの婆さん?」
「ああ、すまねえ。うちのパーティの魔法担当だ! 今回はちょっと不参加だけど、今度婆さんの前でも魔法使ってくれよな? いやあ、マジいいもん見たな」
勇者リアンは、そう言ってミズトの肩から手を離し、剣聖ギルバートと聖女オーレリアの元に戻っていった。
(勇者リアン、俺の苦手なタイプだ……)
ミズトはなるべく近づかないようにしようと心に決めた。
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