第88話 王都の街並み
王都ルディナリア。五百年ほど前に人々が初めて、ノヴァリス大陸からアウロラ大陸へ渡った地。
フェアリプス王国の北西に位置する巨大な港町で、王国全人口の半分がこの街に住んでいた。
豊かな自然に恵まれ、農業漁業が共に盛んで、海を挟んだノヴァリス大陸最大国家『レガントリア帝国』との交易により栄えてきた。
街の中心に建てられたルディナリア城は、王国の象徴として人々を惹きつける白い輝きを放っている。
そこから放射状に広がっている街には、王都らしく各所に店や露店が立ち並び、活気に満ち溢れていた。
ミズトたちの乗った船が港へ近づくと、船上からでもその大きな城を見ることが出来る。
日本の城しか見たことのないミズトは、西洋風の城を目にすると、久しぶりに新鮮な気持ちを味わっていた。
「着いたわ。王都ルディナリアよ」
風になびく金色の髪をかき上げながら、セシルがミズトに言った。
「さすが王都だけあって大きな街ですね」
「そうね。エシュロキアの数倍の規模はあるはずよ。出発まで十日あるから、見て回るといいわ」
「他の冒険者が集結するまで、自由行動ということですね。せっかくなのでそうさせていただきます」
「そうだわ、あなたに渡すものがあるの」
セシルはそう言って、自分のマジックバッグから剣を取り出した。
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アイテム名:女神の銀剣
カテゴリ:武器(装備LV65)
ランク:5
品質 :高品質
効果 :攻撃力上昇
攻撃速度上昇
命中率上昇
聖銀武器
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「これは……?」
「闇属性のモンスターに対して、強い効果のある聖銀武器よ。あなたが最近、魔法使いをやっているのは知ってるわ。でもミズトには持っていてほしいの」
(聖銀武器って、あの時の弓もたしか……。なあ、エデンさん。ランク5だと装備できないんだよな?)
【いいえ、レベル11で習得したスキル『デバイスマスター』により、ミズトさんはランク5の武器や防具を装備可能になりました】
(相変わらず……)
「分かりました。必要な場面になれば、この剣を使わせてもらいます」
「そう、良かったわ」
「そういえば、セシルさんに会ったらお伝えしようと思っていたのですが」
ミズトは剣を受け取り、マジックバッグに入れながら話を変えた。
「セシルさんに頂いたこのマジックバッグ、物凄い助かっています。まさかこれほどの容量があるとは。いくら入れても一杯にはならないようですし」
「そうね、ランク4のマジックバッグは珍しいもの。ただ、それの容量は、所持者の魔力量によって増えるの。たくさん入るのは、あなた自身によるものね」
「あ、そうだったんですか」
「あなた、もう私より魔力量が多いわ。さすがね」
「そんなことはないと思いますが……でも、助かっています。ありがとうございました」
ミズトは意味のない謙遜をしながら、再度礼を述べた。
それからすぐに二人の乗った船は港に着岸すると、十日後に落ち合う約束をして、別々に行動をとることにした。
*
ミズトは、セシルとの約束までの十日間、王都ルディナリアを観光でもしながらゆっくり過ごすことにした。
冒険者なら戦いの準備をして過ごすべきだが、どれだけ経験値が必要か分からないレベル上げをする気にもなれず、売る機会も使う機会もなく大量にストックしたポーションを、これ以上調合する気にもなれない。
それならせっかく訪れた異世界の王都なので、時間があるうちに見て回るのもいい機会だと思ったのだ。
出歩いてみると、王都ルディナリアの街並みは、エシュロキアとそう大きくは変わらなかった。同じ王国なので、文化もさほど変わらないのだろう。
それでもミズトは十分楽しむことができた。
まずは白く大きな西洋風の王城。
緑豊かな丘の上にそびえ立ち、船の上からでも感じたその壮大さは、近づくとより一層存在感が増してくる。
円錐の形をした屋根を持つ塔がいくつも建ち並び、先端に立てられた国旗のような青い旗が、白い城壁と良いバランスを保っていた。
もちろん中を見学できるわけがないが、敷地の周りにある堀に沿って回るだけでも観光気分を十分味わうことができた。
さらには、王都にある様々なお店がミズトを楽しませた。
当然、武器や防具、ポーションや魔法具などの冒険者向けの品揃えはエシュロキアより遥かに豊富なのだが、それよりもレストランやカフェ、パン屋や露店など、普通の人々の暮らしに使うお店が、ミズトの興味を強くひいた。
(いいねえ、都会暮らしっぽくて)
ミズトは大通り沿いにあるカフェを外から覗き込んだ。
【エシュロキアにあったお店と、それほど変わらないように見えます】
(なんだ、エデンさんはこういうの分からないのか。俺から言わせるとだいぶ違うぞ? あっちは実用性だけ重視されてたが、この街はもっと遊び心があるというか、生活にゆとりを感じるんだよな。例えばここみたいに、酒や食事ではなく、ノンアルコールの飲み物やスイーツをメインに提供するカフェなんて、エシュロキアにはなかっただろ?)
【おっしゃる通り、生活に必ずしも必要ではないこのようなカフェは、エシュロキアにはございませんでした】
(そう、必要最低限の生きるためだけの暮らしではなく、それにプラスアルファがある暮らしこそ、人間らしい生活って言えないか? たとえばカフェで優雅な時間を過ごすことが、人の心を裕福にしてくれるはずだ)
【なるほど、それがミズトさんの目指す、働かずに遊んで暮らすスローライフというものですね】
(!? いや……なんか……ちょっと違うような……違わないような…………)
そういうことじゃないと言い返したいところだったが、否定しきれない部分もある気がした。
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