第82話 潔白の証明
【ミズトさん、面白いクエストが発生したようです】
エデンからミズトに声をかけてきた。
(面白い? 急に何を……)
ミズトはエデンの表現に戸惑いを覚えたが、とりあえずクエストの内容を確認することにした。
====================
◆クエスト発生◆
クエスト名:潔白の証明
自身にかけられた強盗殺人の容疑を晴らしてください。
報酬:経験値100
金100G
====================
(へえ、こんなクエストもあるのか。限定じゃないのに報酬が多いな)
【それはミズトさんのレベルが10を越えたため、クエスト報酬が上がりました。限定クエストはさらに報酬が高くなるはずです】
(ああ、そういうことか。そういえばそんなこと言ってたな。となると次の限定クエストが少し楽しみだな)
あの事件が起きた翌日、ミズトは窃盗団のアジトと聞かされていた屋敷の近くに隠れていた。
現場百回じゃないが、クエスト発生に関係なく、真犯人を捜すために戻ってきていたのだ。さすがに
(さて、何の手掛かりもないが、これからどうするか)
【手掛かりがあるとすれば、子爵の屋敷かこちらしかありません】
(だよな。と言っても子爵の方は俺を嵌めた理由も分からないし、奪われた物が子爵の屋敷で見つかれば証拠になるが、そもそも何が奪われたのかも知らないしな)
【おっしゃる通りです。ミズトさんがまずすべきことは、奪われたアイテムを追いかけることです。しかし、それがどんなものか分からないのでは探しようがありません。そこで私から提案がございます】
(お? 助手っぽくていいねえ)
【ありがとうございます。アイテムの見た目が分からないのでしたら、匂いを辿ってはいかがでしょうか?】
(匂い? …………クロか!)
【はい。再度屋敷に侵入し、殺害をした者かアイテムの匂いをクロに嗅ぎ分けてもらいましょう】
(それは良い案だな。クロなら何とかなりそうだ)
「クロ。またお前に匂いを追ってもらうことになりそうだ」
ミズトがクロを撫でると、
「クゥゥゥン」
と頷くように小さく答えた。
それからミズトは敷地内の人の気配を正確に確認すると、誰にも出くわさないように侵入した。
前日のようにヘマは出来ない。いや、そもそもあれも仕組まれたものかもしれない。
どちらにしても人の位置が分かるミズトは、慎重に行動さえすれば誰の目にも触れず目的の部屋に辿り着くのは
すぐに部屋へ着くと、昨日も見たケースが残っていた。
(都合のいいことに壊されたケースは、散らばった破片以外そのままにされているようだな。さすがに遺体は見当たらないが……)
中は規制線の紐が張られていた。
刑事ドラマの殺人現場のように、遺体の形に沿った線は書かれていないが、ここで何かの調査はしていたようだった。
「クロ、匂いは辿れそうか?」
ミズトはクロを抱きかかえ、壊れたケースに近づけた。
クロはミズトの意図を理解しケースの匂いを嗅ぎまわると、
「ワン!」
とミズトを見て小さく吠えた。
「そうか、いけるんだな。頼んだぞ」
ミズトがクロを放すと、クロは追跡を始めた。
*
「トリスターノ支部長。妙なタレコミがあったのでご報告に参りました」
鹿の獣人トリスターノのいる支部長室に、冒険者ギルド事務員の男が入ってきた。
「妙なタレコミ? どういう内容だ?」
「今夜、異界人のミズトが、『エシュロキア迷宮』の近くにある廃教会に現れるという内容でした」
「廃教会にミズトが!? その情報、誰が持ち込んだのだ?」
「それが妙でして。その話を持ってきたのはただの子どもでした。その子が言うには、知らない男に小遣いを貰って、冒険者ギルドへ伝えるよう頼まれたとのことです」
「子どもが頼まれた? たしかに、それは妙だな……」
トリスターノは腕を組み、何かを考えるように目を閉じた。
「それともう一つ。奪われた『精霊石の首飾り』も一緒だということです」
「何? 奪われた物が『精霊石の首飾り』というのは内密にしてあるはず。それを知っているいったい誰が……」
トリスターノは片目だけ開け事務員を見た。
「どういたしましょうか? あまり信憑性が高いと言えませんので、無視してもよろしいかと思いますが」
「いや、ミズトに関わることだ、調べる必要があるだろう。それに『精霊石の首飾り』のことを知っている者の情報となると、単なるいたずらとも思えん」
トリスターノは立ち上がると、階級の高い冒険者を緊急で集めるよう事務員へ指示を出した。
もし本当にミズトが現れるのなら、トリスターノ自身が廃教会へ
トリスターノは今回の強盗殺人がミズトによるものだとは思っていない。しかし、ミズトが逃げ回っていると彼の潔白を証明することもできないのだ。
ミズトの身柄を冒険者ギルドで確保したうえで、領主と協力して真犯人を探す必要があると思っていた。
ただ、ミズトが拒んだ場合、トリスターノもそれなりに腕に自信があると言っても、相手がC級冒険者では実力行使された場合どうなるか分からない。
そのために冒険者へ協力を要請することにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます