第81話 冤罪
アボット子爵の屋敷に着くと、ミズトが想定していなかった出来事が待っていた。
依頼を受けた時と同様に応接室へ通されたのだが、何故か槍を装備した子爵の私兵に取り囲まれたのだ。
「これはどういうことでしょうか?」
ミズトは執事に尋ねた。
「ええい、しらばっくれるでない!」
大声で答えたのは、執事ではなく、その隣にいた貴族らしい豪華な服装をした太めの中年男だった。
ステータスを見ると、その人物がミズトへ指名の依頼を出したヘイデン・アボット子爵と分かった。
「そちらの方はアボット子爵でいらっしゃいますね? 何かの間違いだと思いますので、状況をお聞かせ願えないでしょうか?」
「この薄汚い
アボット子爵は
(は? 何を言っているんだ、こいつは? 領主の所有する屋敷ってのは、さっきの屋敷か?)
「お待ちください。お名前を呼んだのが失礼にあたるなら申し訳ございません。しかし、私はこちらで依頼を受けて、あの屋敷に伺っただけです」
「
(おいおい、話が見えないんだが……。何だか
【ミズトさんは嵌められたようです】
(ん? 嵌められた……? 嵌められた!? チッ、俺は何をボーっとしてたのか……)
ミズトはまったく想像が足りていなかったが、エデンの言葉で自分の状況を理解した。罪を
「執事の方! 私に家宝を取り戻すよう依頼されましたよね?」
「……」
執事は何も反応しない。
(なるほど、少なくともあいつは俺を
【状況を考えれば首謀者の可能性もございます】
(エデンさんもそう思うか。モンスターを相手にするより、人を相手にする方が警戒が必要だったってことだな……)
「どうもお話が平行線のようです。ここは一度ギルドへ報告に戻ろうと思います」
ミズトは子爵へ向かって言った。
「何を言っておる! 貴様は領主様の警備兵を殺害しておるのじゃ。申告はしておいたから、冒険者ギルドに指名手配されておる頃じゃて!」
(ん~、そうきたか)
「冒険者ギルドも事態を知っているってことですね。情報提供ありがとうございます。では私はここで失礼いたします」
「ここで逃げられたら困るのお。貴様ら、この
アボット子爵の合図で、槍を持った私兵が一斉にミズトへ襲い掛かった。
*
冒険者ギルドの支部長室では、支部長トリスターノと受付ベティが難しい顔をして話し合っていた。
「あのミズトさんがそんな事するはずありません! 何かの間違いに決まってます!」
大声を出して机を叩いたのはベティの方だ。
「わ、分かった分かった。俺だってミズトがやったとは思ってない」
鹿の獣人トリスターノは困った顔をしながら、
「ならどうしてですか!!」
「そりゃあまあ、子爵様の申告を
「どう考えてもおかしいじゃないですか! ミズトさんは指名依頼で行ったのですよ!? なんでそんな事しないといけないのですか!!」
「分かってる、分かってるって。ただな、国宝級アイテム『精霊石の首飾り』が奪われたのも、警備していた領主様んとこの兵が殺されたのも、紛れもない事実なんだ。そのうえ、子犬を連れた
「それだっておかしいでしょ! 『精霊石の首飾り』を盗賊から取り戻したのはミズトさんなんですよ! 殺された警備兵だって、刃物によるものなら、ミズトさんのわけありません!」
ベティはバンバンと机を二回叩いた。
「お、落ち着け、ベティ。君の言っていることは正しいから、な? ――――それにしてもミズトの奴、子爵様の屋敷から姿を消して、どこへ行ったのか……」
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