第78話 久しぶりのエシュロキア
ミズトは二週間ぶりにエシュロキアの宿に戻っていた。
(これでやっと上級ポーションの調合ができるな)
【はい。『ドラスヴェイル古代坑道』でかなりの量の素材を入手しましたし、『賢者の錬金釜』も情報通りでした】
(ああ。こいつがあれば作れるんだろ? アイテム情報だけ見てもよく分からんけど)
ミズトはマジックバッグから、腰ぐらいの高さがある釜を取り出し、床に置いた。
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アイテム名:賢者の錬金釜
カテゴリ:魔法具
ランク:4
品質 :高品質
効果 :調合や錬金術に使用
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魔法具と言うだけあるのか、美術品のように様々な装飾がされており、もし効果が何もなくても貴族や商人に高額で売り付けられそうだった。
【高度な調合や錬金術には、『賢者の錬金釜』が必須と思ってよいでしょう。薬師や錬金術師にとって、『賢者の錬金釜』を使用することは一種のステータスになっています】
(ふうん、そういうものなのか。たしかに入手するの大変だったしな)
【その通りです。あそこのダンジョンボスはソロで挑むような相手ではありませんでした。途中でミズトさんのレベルが11まで上がり、新たに覚えた『超越者』の固有スキルで何とか討伐できましたが、スキル習得前でしたら、いくらミズトさんでも厳しい結果になっていたでしょう】
(はは……ホントにギリギリの戦闘だったな……。なんか当分ダンジョンはいいや。レベルも目標の10を越えたことだし)
【今のミズトさんが苦戦を強いられることはまずありませんが、それでも初めて挑戦するダンジョンについては、もう少し慎重になるべきと考えます】
(ああ、分かってる。それより、この釜に材料を突っ込んで調合すればいいんだよな?)
【はい、必要な素材と空き瓶を入れて、調合を実行してください】
ミズトは上級ポーション十本分の材料を『賢者の錬金釜』に入れ調合を行った。
*
翌日、ミズトは冒険者ギルドでC級向けの依頼を物色していた。
C級に上がってからは結局これが初めてとなり、相場が分からないので満遍なくチェックしていた。
(やっぱダンジョン系の依頼ばっかだな)
【当然です。数少ないC級冒険者には、危険なダンジョン深層の依頼が殺到しています】
(ん~、ダンジョン内で宿泊すんのももう嫌だし、どうするかな……)
ミズトが壁に貼ってある依頼と睨めっこしていると、受付の方からミズトを呼ぶ声が聞こえた。
「ミズトさん! こっちです! こちらへいらしてください!」
受付のベティが2番受付から手を振っていた。
(あの娘……目立つからそういうの止めてくれよ……)
案の定、たくさんの視線がミズトに集まっている。
「おい、あれ。魔法使いの
「C級に上がったって話、本当だったんだな!」
「ベティちゃんが専属受付になったらしいぜ」
ミズトは周りの視線を無視して受付まで行った。
「すみません、大声で呼ぶのは止めてもらえると助かります」
「ミズトさん、やっとお戻りになられたのですね! 心配しましたよ! あれほど毎日のように依頼を受けていたミズトさんが、突然音沙汰がないものですから!」
ベティは両手で受付台を一度叩いた。
「ご心配を掛けたようで、申し訳ございません。ところで、どのような用件でしょうか?」
「ああ、そうですね。ミズトさんにはお話しすることが多すぎて、どこからお話していいのか……。まずはですね、私がミズトさん専属の受付になったことをお伝えします!」
「専属の受付?」
「はい。C級冒険者になると、受付担当が専属になります。ミズトさんには私が就くことになりましたので、よろしくお願いしますね!」
「そうなのですね、よろしくお願いします。今後はベティさんに依頼受領をお願いすればいいのですね」
「はい、その通りなのですが、それだけではありません! 専属の受付である私は、ミズトさんが受ける依頼の選別や、順番の提案、関連する情報収集、必要であれば宿の手配やアイテムの準備まで行います!」
(なんか面倒くさいことになってきた)
「それはまた、至れり尽くせりで恐縮です」
ミズトは内心と裏腹に、笑顔で感謝を表現した。
「今のが一つ目のお話です!」
(長くなりそうだな……)
「二つ目というのは?」
「ニックさんについてです!」
ベティの話では、昨夜ニックたち『草原の風』が泊まっている宿屋が、従業員も宿泊客も全員眠らされるという事件が発生したそうだった。
夜になれば寝るのが普通じゃないのかとミズトが言ったが、作業をしていた従業員も、会話中だった宿泊客も、全員同時に眠気に襲われて眠りについたという話だ。
そんな現象は魔法によるものとしか考えられないのだが、その時に宿屋内にいた者は百人ほど。
同時に魔法で眠らせるには大規模過ぎるのだ。
そのうえ魔法抵抗力の高いC級冒険者パーティ『草原の風』もまとめて眠らされているので、大騒ぎになっているという。
「そんなことが起きていたのですね。まあ私には関係なさそうですが」
「いいえ、それがそうでもないのです」
ベティはミズトから目を離さず、ジッと見ながら言葉を続けた。
「なんと、朝になるとニックさんの腕が再生していたのです!」
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