第75話 精霊石の首飾り

 その後、ミズト達は盗賊全員を拘束し終わると、洞窟の中でアナング商隊と護衛の冒険者を見つけた。

 何日か食事も与えられず、傷を負っている者もいたが、ミズトが食事とポーションを用意し、すぐに皆が自力で歩けるほど回復した。


「ミズトさん、あなた随分準備が宜しいのですね」


(おめえらが悪すぎなんだよ)

「冒険者ですので、一応このぐらいの準備は必要かと」

 ミズトは皮肉を込めてクレアに答えた。


「そのとおりね。今回はミズトさんのおかげで勉強になったわ。ね、エドガー」


「はい、おっしゃる通りです……」


「…………」

 皮肉を真摯に受け止められて、何だか気恥ずかしくなりミズトは話題を変えた。

「と、ところで、冒険者が護衛についていても、商隊が襲われることはよくあるのですか?」


「? どうかしら? たしかにE級冒険者パーティが護衛している商隊を、わざわざ狙わなくてもいい気がするわね。さすがミズトさん、いいところに気づくわ」


(いやいや、ただ聞いてみただけだから。俺は気になってないから)

 なんだか変に食いつかれてしまった。


「それは私からお話いたしましょう」

 一人の紳士が、ミズトとクレアの会話に入ってきた。


「申し遅れました、私はアナング商隊のマイルズと申します。この度は我々を救出してくださり、誠に感謝いたします」

 紳士は、二人に聞かれるより早く名を名乗った。


「私はクレアよ。マイルズさんと言ったわね。狙われた理由があるっていうの?」


「はい、こちらをご覧ください」

 マイルズは豪華に宝飾された首飾りを出した。


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 アイテム名:精霊石の首飾り

 カテゴリ:装飾品

 ランク:4

 品質 :高品質

 効果 :なし

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「こ、これは……精霊石……?」

 クレアは首飾りを見て驚いている。


「そのとおりでございます。この首飾りは精霊石が施された首飾りです」


(精霊石? 効果『なし』なのに凄いのか?)


【はい。精霊石は単体では何の効果もありませんが、非常に希少な鉱石なため、それを使った装飾品はかなり高価な物と言えるでしょう】


(ふうん)

 ミズトはクレアの驚きぶりを少し納得した。


「精霊石の首飾りなんて国宝級の品、売買は禁止されているはずでは……。あなた方アナング商隊はこれを普通に扱っているとおっしゃるの?」


「とんでもありません。売買が禁止されている精霊石の首飾りなんて扱うはずございません。今回は売買目的ではなく、特別な依頼があり護衛をつけて運んでいたところでございました」


「そう……、それを信じたとして、狙われた理由はこれだと言うのね?」


「はい、その通りでございます。盗賊たちは、我々がこれを運んでいることを、事前に知っていた様子でした」


「――――なるほど、どこかから情報を入手して、それを狙ってきたのね。それにしても精霊石の首飾りなんて……。ねえ、運ぶのを依頼したのはどなたなのかしら?」

 クレアは少し考えてから、マイルズに尋ねた。


「それは申し上げることはできません」


「そうよね……。仕方ないわ、あとはギルドや領主にでも任せましょう」

 クレアは何か言いたそうな表情のまま、今回は引き下がった。


 それから、拘束した盗賊たちはいくら起こしても目覚めないため、荷物のように馬車へ詰め込み、ミズト達はエシュロキアへ戻っていった。


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 ◆限定クエスト完了◆

 報酬が支給されます。

 クエスト名:クレア王女と共闘

 報酬:経験値100

    金10G

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 ミズト達が冒険者ギルドに戻ると、ギルドが盗賊たちを引き取ってくれた。事情聴取や領主への引き渡しも、全てやってくれるようだ。

 合わせて依頼達成の報告をすると、ただの捜索のはずが救出まで達成したので、ミズトは文句なくC級への昇級が決まった。

 クレアも、レベル不足だが特別推薦でG級昇級の打診があったが、自分は役に立ってないと言って、推薦を断った。


(気持ちは分かるが、それはそれ、これはこれ、じゃね? 過度な評価で昇級すれば自分を追い詰めることになるだろうけど、逆にそれを利用してモチベ上げるって手もあるんだけどな)

 ミズトはそう思ったが、別に友人でも部下でもないので、何も言わず挨拶だけ済ませてパーティを解散した。


 これでまた、静かな一人の冒険者生活に戻れる。

 いや、C級に上がったぶん報酬も上がるので、今まで以上に張り切って稼いで、念願のスローライフに近づいていく。

 そんな青写真をミズトは描いていたが、自分の知らない間に、想定外のことが起こっていた。


「てめえが異界人いかいびとのミズトか! やっと見つけたぜ!」

 ミズトが壁に貼ってある依頼を選んでいると、突然見覚えのない男が食って掛かってきた。


 ステータスを見るとレベル50台の格闘家。

 この町ではトップクラスの冒険者だ。


「失礼ですが、どちらさまでしょうか?」

 ミズトは、人間のわりには獣人のように大きい男を見上げた。


「ああ? てめえ、この町の冒険者で俺を知らねえとか、とぼけてんのか? 俺は『草原の風』のダンカンだ! 知らねえとは言わせねえぜ!?」


(草原の風?)


【ニックさんのパーティメンバーのようです】


「ああ……ニックさんのお仲間ですね。これはご挨拶が遅れました、魔法使いのミズトと申します」

 ミズトはわざとらしく頭を下げた。


「てめえ、舐めてんのか? そんなのはどうでもいいんだよ! それより、てめえは自分が何をやったのか分かってんのか! おおっ?」

 ダンカンはミズトの胸ぐらを掴んだ。


 大して知らない奴に胸ぐらを掴まれると想像以上に腹が立ち、腕をへし折ってやろうかとミズトは思ったが、さすがに事情を先に確認することにした。


(エデンさん、何か分かるか?)


【申し訳ございません。ダンカンさんがなぜ怒っているのか、わたしにも理解できません。彼と直接接触したことはないはずです】


(だよな……)

「申し訳ございません、何か失礼があったのならお詫びします。私が何をしたのか、ご説明いただいてもよろしいでしょうか?」


「なんだと? てめえ、あんな事してしらばっくれるつもりか! てめえの押し付けのせいで、どんだけ迷惑になってると思ってんだ!!」


(押し付け? モンスターの押し付けのことか?)


【どうやらそのようです。たしかにミズトさんがアナング商隊捜索を受ける前日、ギール地下遺跡で戦闘中の『草原の風』の近くを通っておりました。あの時に気づかず押し付けたのかもしれません】


(アナング商隊捜索の前日? あの日は確かに急いで帰ったような……)

 ミズトは何となく心当たりがあった。


「申し訳ございません。故意ではありませんが、気づかずに押し付けてしまっていたのなら、謝罪いたします」


「謝れば許されるわけ……ねえだろうが! ニックはあの戦闘が原因で片腕を失くしたんだぞ!!」

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