第74話 盗賊団との戦闘
「て、てめえ、何者だ!?」
もう一人の見張りもクレアに気づき、武器を構えた。
その瞬間、反対側からエドガーが現れ、クレアに気を取られている見張り二人を、簡単に気絶させた。
「よ、良くやったわ、エドガー」
「クレア様、気づかれないよう、静かに攻撃いただけると……」
「そ、そうね。稽古の時いつも声を出すものだから……」
さすがのクレアも自分の失敗を認識し、引きつった顔で答えた。
(あの王女、大丈夫か? 次はしっかりやってくれよ、と言いたいとこだが、次はなさそうだな……)
ミズトは、洞窟の中から出てくる気配を察知した。
「おい、お前ら! そんなとこで何をやってる!!」
洞窟の中から、ゾロゾロと盗賊が外へ出てきた。
クレアたちの声に気づいたようだ。
「こ、こんなにいるのか……?」
現れた四十人ほどの盗賊を見て、エドガーが焦りを見せた。
「なんだ、お前ら? 冒険者か? どういうつもりか知らんが、ここを知った以上は生かして帰さんがな」
一番レベルの高い、リーダー格のような男が言った。
短剣を持つ他の盗賊と違い、片刃で刀身が湾曲したカットラスと呼ばれる武器を持っている。
「ク、クレア様、お逃げください。こうなったら商隊の救出は無理です。一旦退きましょう!」
「何を言っているの、エドガー! いくらあなたでもこの数は無理だわ! 二人で戦うわよ!」
「クレア様こそ何を言っているのです! 勝てないにしても自分ひとりなら何とかなります! クレア様はお逃げください!」
「いいえ、私は逃げないわ!」
クレアは剣を構え、戦う体勢に入った。
「ギャハハハハッ! たった二人でやるつもりか? どちらにしても逃がしゃしねえよ!」
リーダー格の男があざ笑うように言った。
「くっ……」
エドガーは仕方なく、クレアの側で剣を構える。
「ふん、男の方はそれなりに腕が立ちそうだが、その女を守りながら戦えるかな? ギャハハハハッ! おいてめえら、やっちまえ!!」
「おおおぉぉぉぉ!!」
リーダー格の男が合図をすると、盗賊たちが一斉に二人へ襲い掛かった。
(あらま、戦いが始まったようだねえ)
ミズトはその様子を草木に隠れて見ていた。
【クレアさんの最初の一声で、こうなることは予想可能です】
(はっは、その言葉そのままあの王女に聞かせてやりたいわ)
【ミズトさんは参戦しないのでしょうか?】
(ん~、王女様にここで待機するよう言われたからなあ。ちゃんと言うこと聞かないとな!)
【しかし、あのお二人はそれほど持たないと思われます】
(だろうな)
エデンが言うように、クレアとエドガーはかなり苦戦していた。
さすがにエドガーは、その辺の盗賊程度では相手にならないようだったが、クレアの方は一対一ではただ一人にも勝てない様子。
エドガーがそんなクレアを守りながら戦っているため、うまいように倒し切れないのだ。
エドガー一人で、かなりの人数の盗賊を相手にしていたが、防戦を続けているだけでは結果は見えていた。
数分もしないうちに、一人の盗賊の短剣がエドガーの腕に刺さった。
「ぐぁぁっ!?」
エドガーは一瞬声を上げるが、すぐさま刺した盗賊の腕を斬り落とした。
「エドガー!? 大丈夫!?」
「クレア様……どうかお逃げください。このままでは……」
エドガーは呼吸が荒くなり、一目で余裕がなくなっていることが分かった。
「ギャハハハハッ! 短剣には毒が塗ってあるぞ! 残念だったなあ!!」
リーダー格の男は嬉しそうに笑った。
「そ、そんな……。エドガー……」
「クレア様、そんな顔なさらないでください……。自分がこの程度の毒で死ぬわけありません。しかし、このままお守りし続けるのは出来そうもないので、どうかお逃げを……」
「あなたを置いて逃げるわけにはいかないわ……」
「クレア様……自分なんかより……クレア様ご自身のお立場をお考え……ください」
エドガーは立っていることさえ辛そうだ。
「ギャハハハハッ! おいてめえら、男の方をやっちまいな!!」
「おおおぉぉぉぉ!!」
再び盗賊たちが一斉に襲い掛かった。
クレアが絶望的な悲鳴をあげている。
(ああ、もう! こうなるなら最初から参加しときゃ良かったって)
「スリープ」
ミズトが相手を眠らせる魔法を唱えると、四十人ほどの盗賊たちが、バタバタとその場で崩れ落ちた。
「え? え?」
クレアは何が起こったのか理解できず、キョロキョロと周囲を見回した。
「解毒薬はお持ちではないのですか?」
「ミズトさん……?」
「それにしても、盗賊のような馬鹿どもには魔法がよく効きますね。あ、これ解毒薬です、どうぞ。急いだ方がよいと思います」
木陰から現れたミズトは、マジックバッグから解毒薬を取り出し、クレアへ渡した。
「あ、ありがとう、助かるわ……」
クレアは相変わらず状況を理解していなそうだったが、受け取った解毒薬をエドガーに使用した。
するとすぐにエドガーの顔色が戻り、会話ができるまで回復した。
「物凄い効果の解毒薬だな……。で、これはミズトがやったのか?」
エドガーは倒れている盗賊たちを見渡した。
「はい。スリープの魔法ですので、少しすれば皆起きてしまいます」
「そうか……。魔法のことは詳しくないが、さすがソロでD級までのし上がっただけはあるってことか……。ミズト、いろいろ助かった」
「いえ、こちらこそもう少し早く援護しても良かったのかもしれません」
「いや、最初から援護してもらうよう、こちらが頼むべきだった。すまなかったな」
「いえ、お二人とも無事でしたので、なによりです」
(ったく世話焼かせやがって……)
エドガーが意外にも殊勝な態度だったので、ミズトは少し戸惑っていた。
「クレア様、申し訳ございません。自分が不甲斐ないばかりに危険な目に合わせてしまい」
「な、なにを言っているの、私が招いた状況よ! あなたが無事で本当に良かったわ! ミズトさん、あなたのおかげみたいね。改めて礼を言うわ」
クレアがミズトに向いた。
「当然のことをしたまでです。それより盗賊たちはどういたしましょうか? 全員焼き殺すことも可能ですが」
「やき……!? いえ、それには及ばないですわ。全員拘束しましょう。エドガー、ミズトさん、手伝ってくれるかしら」
クレアはそう言って、紐を出して近くの盗賊を縛り始めた。
(おいおい、そんなモタモタしてたら起きちゃうんじゃねえの?)
【ミズトさんの魔法ですので、数時間は起きることはないと思われます】
(ああ、分かってる……)
いちいち紐で縛り上げていくのは面倒だとミズトは思いながらも、本当に焼き殺すわけにもいかないので、仕方なくクレアに従った。
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