第69話 クレアからの提案

「すみません、クレア様。ここは私が!」

 隣のエドガーが、もう我慢できないと割って入って、説明を続けた。

異界人いかいびとに自己紹介は不要かもしれんが、俺はクレア様の護衛をしているエドガーだ。冒険者ではないが、よろしくな」


「はあ、よろしくお願いします」

 偉そうで気に入らなかったが、手を出してきたので嫌々握り返した。


「お前は知らないだろうが、この町で活動しているD級以上の冒険者は、C級が二組、D級が二十組いる。そのうちC級二組とD級十九組は、全てフルの六人パーティで構成されている」


「私以外の全てって意味でしょうか」


「そのとおりだ。つまりD級冒険者で新規にパーティを組めるのはお前だけなんだ」


「七人のパーティは組めないのですね。それで、私とパーティを組めばD級の依頼を受けることができると」


「そのとおりよ!」

 クレアが入ってきた。


「理由は承知しました。しかし私も忙しいですので、お断りさせていただきます」


「そんなのダメよ! 断るなんて許さないわ!」

 クレアは立ち上がろうとするミズトを引き留めるように、再度テーブルを叩いた。


(こいつ引っぱたいたら不敬罪ってやつか?)


【その可能性は大いにございます】


(…………)

「そう申されましても……」


「あなた、なぜ私がそうまでしてこの依頼を受けたいかお聞きにならないの!?」


(興味ない)

「……なぜそうまでして受けたいのでしょうか?」


「よくぞ聞いたわ!」


(またそれか……)


「この依頼、D級にしては報酬が安すぎると思わない?」


(安すぎるわボケ!)

「たしかに、言われてみれば安いようですね」


「そうなの! なぜだと思う? それはこれが王国公認依頼だからよ!」


「王国公認依頼?」


「そう! 報酬を支払うのが王国ってこと。他の依頼と違って達成しても報酬を負担する相手がいないのよ。それでも王国が必要な依頼と判断した場合、王国が公認として最低報酬額を支払う制度なの」


「達成しても金にならないような内容だけど、王国がやるべきだと判断すれば代わりに報酬を支払ってくれるってことでしょうか?」


「そうよ! 今回、本来は騎士団や領主の衛兵が出るような内容だけど、人を回せない代わりにギルドへお金で支援するってことね!」


「なるほど」

(てか本題に入ってないし。早く話進めてくれ……)


「だからD級でも報酬が安くなっているの、分かった? そのせいもあって、この依頼を他の冒険者たちがやりたがらないってこと。たしかに5,000Gの報酬を六人で分けたら少ないわ。しかも一日で終わるような依頼でもないし。そこであなたの出番よ!」


「……」


「私とパーティを組んで、この依頼をやるのよ! 報酬は全てあなたにあげるわ。それにこのエドガーをついて来させるから、あなたは何もしなくても大丈夫よ!」

 エドガーのレベルは57。この町のトップパーティのメンバー、ニックよりも上だ。


「それって規定違反になるのではないでしょうか?」


「そんなことないわ。冒険者以外の援助を受けても良いことになっているの!」


(そうなのか?)


【はい、ギルド規定では大丈夫なようです】


「パーティを組んで依頼を受けたら、後はそちらの方がなんとかされる、ということですね」


「そう、こんな楽なことはないですわね!」


(どうすっかな……。結局その騎士がやるなら勝手にやればいいじゃねえか。依頼を受けたい理由も分からないし……)


【依頼の詳細を見る限り、数日は町を離れる必要がありそうです。しかし、高位の立場と思われる彼女に恩を売れるのは、この先大きな利になるでしょう。さらに申しますと、クエストが発生しております】


(なに!?)


 ====================

 ◆限定クエスト発生◆

 クエスト名:クレア王女と共闘

  クレア王女と協力して『アナング商隊とその護衛の捜索』の依頼を達成してください。

 報酬:経験値100

    金10G

 ====================


(この女、王女ってこと!?)


【そのようです】


(くそ……。前も言ったかもしれないけど、限定クエストだろうと、やるかやらないかは俺自身で決めるからな! 限定クエストが発生しようと、やらない場合もあるからな!)


【はい、承知しております。しかし、今回は承諾すれば、間違いなくミズトさんの利になります】


(…………)


「ミズト! 楽なだけじゃなく、お前にとって良い事もあるぞ!」

 ミズトが悩んでいると、聞いた覚えのある野太い男の声が入ってきた。


「トリスターノ支部長?」

 声の方向を見上げると、いつの間にか冒険者ギルドの支部長トリスターノがテーブルの横に立っていた。


「ああ、D級面接以来だな」


「その節はどうも。それで、私にとって良い事とはどういう意味でしょうか?」


「その公認依頼を達成すれば、お前をC級へ昇級させよう」


「C級へ?」

(そういえば今までと違い、C級以上の昇級条件は教えてもらえなかったな)


「そうだ。悪い話じゃないだろう?」


【トリスターノさんの言う通り、良い話しかありません】


(…………)

「そこまでおっしゃるなら……お受けします」


 ミズトは、なぜトリスターノが急に入ってきたのか疑問だったが、鑑定すれば名前も分かることだし、クレアが王女だと知っているのだろう、と落ち着いた。


「ありがとう、ミズトさん! 感謝しますわ!」


「いえ……とんでもありません」


「じゃあミズトさん、あなたは依頼を受付で受領しておいて。出発の準備もありますので、一時間後にまたここで待ち合わせにしましょう」

 クレアはそう言って立ち上げると、エドガーを連れて早々に出ていってしまった。


「ミズト、お前は異界人いかいびとだから彼女の立場に気付いているだろうけど、すまないが彼女に付き合ってやってくれ。悪い方ではないのでな」

 支部長トリスターノは片目をつぶった。


「承知しました、今回はお力添えさせていただきます」

 人がウインクするところなんて久しぶりに見て少し寒気がしたが、ミズトは丁寧に頭を下げて、受付へ向かった。

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