第67話 クレアとエドガー
それから半月ほど経った頃、クレアとエドガーはクロを連れたミズトを再び町で見掛けた。
「あら、あの子犬は」
「クレア様。あれは犬ではなく使い魔です」
「使い魔でも犬は犬なのでは?」
「そうなのですが……」
「あ! あの馬車危険だわ! あんなスピードでは前方の小さな子たちに」
クレアがそう言った瞬間、ミズトが魔法を放ち馬車の車輪を破壊した。
「…………もしかして子供たちを救ったのかしら」
「まさか、ただの偶然でしょう」
「でも、あの子たちはたしか……」
「そんなことより先を急ぎましょう! 今日の依頼場所は少し遠いようですし」
「そ、そうね……、
クレアはミズトの行動が少し気になったが、すぐに頭から振り払い自分の目的地へ向かった。
*
それから十日ほど後、クレアとエドガーは冒険者ギルドを訪れると、いつもと違う雰囲気に気づいた。
「ねえ、朝からこの騒ぎは何?」
クレアは、ずいぶん騒がしい様子について受付の女性に尋ねた。
「おはようございます、クレアさん。それが、冒険者の方々から苦情が殺到していまして……」
「冒険者からの苦情?」
「はい。『ギール地下遺跡』にマナーの悪い冒険者がいて、だいぶ迷惑をかけられていると」
「『ギール地下遺跡』に行くなんて、それなりの階級の冒険者じゃないのかしら? そんな冒険者がマナーを知らないなんて思えないわ。――――それで、どんなマナー違反を?」
冒険者のマナーなんて知らないクレアは、中身が気になった。
「D級冒険者の方なのですが、どうも冒険者と戦闘中のモンスターを横から倒したり、たくさんのモンスターを他の冒険者に押し付けたりしたようです」
「あら、それならさすがに
「おっしゃる通りなのですが、ミズトさんは冒険者になってそれほど経っていませんし、悪意なく偶然なのではと思うのですよね」
「ミズト……? それって
クレアは身体ごと受付の女性に向きなおった。
「は、はい。いつも可愛い子犬を連れている、魔法使いのミズトさんです」
「ちょっと、待って。彼がD級? もっと低い階級じゃなかったかしら?」
「いえ、ミズトさんはD級で間違いありません。
「そう……
「ミズトさんは朝早くにいらして、依頼を受領したらお出掛けになられました。毎日夕方にはお戻りになられるので、今日も夕方ごろにいらっしゃるかと」
「そう、ありがとう。ところで、ギルド支部長を呼んでもらっていいかしら?」
「支部長? トリスターノさんのことでしょうか?」
受付の女性は少し驚いた表情をした。
「ええ、支部長のトリスターノさんを」
「しょ、少々お待ちください」
だいぶ戸惑いながら、受付の女性は受付の奥へと消えていった。
周りに誰もいなくなったことを確認したエドガーが、小さい声でクレアに話しかけた。
「クレア様。さすがに一介の冒険者が冒険者ギルド支部長を呼び出すのはどうかと……」
「仕方ないですわ。昇級のための鑑定を他の方に任せるわけにはいかないのですもの。事情の知らない方に名前を見られたら面倒だわ」
「その通りなんですが、支部長も色々忙しいでしょうし……」
エドガーは迷惑を掛けていると言いたかったのだが、それを言うと何を言い返されるか分からないので、最後は言葉を濁したのだった。
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