第58話 昇級
冒険者登録をしてから約一週間が経った頃、ミズトは朝から冒険者ギルドの受付に質問をしていた。
「つかぬことをお伺いしますが、私はあとどのぐらいでI級に上がるのでしょうか? だいぶ案件はこなしていると思うのですが」
「ミズトさん、最初の説明を忘れてしまったんですか? レベル10になるまでは依頼達成に関係なく上がらないですよ? I級への昇級条件は、依頼達成10個とレベル10以上です」
「え?」
(そうなの!? エデンさん、知ってたか?)
【はい、初日にこの方が説明されていましたので】
(マジか……、依頼達成10個なんてとっくじゃん……。エデンさん、今すぐに偽装ステータスのレベルを上げられるか?)
【もちろん可能です。ただし、急なレベルアップは不審に思われますので、レベル10に設定いたします】
(頼む!)
「お伝えしそびれていたのですが、実はレベルが10に上がりました。これで昇級をお願いできないでしょうか?」
「え? もうですか? たしかにミズトさんは依頼を20個達成していますので、レベルが足りていれば昇級ですが……。それでしたらまた鑑定しますので、こちらへお越しください」
(よし、これで少しはマシになるな)
ミズトはやっと冒険者の階級を一つ上げることが出来たのだ。
*
I級の依頼からモンスター退治の内容が入っていた。
と言っても町の周辺にいる、ブルースライムかフォレストゴブリンを数体倒すだけ。ミズトなら千体でも余裕なので、準備運動にもならない相手だ。
察知で簡単に見つけることもでき、本気を出せば依頼三つを三十分もあれば完了させられるのだが、目立たないようワザと午後に完了報告をした。
どうせ三つまでしか受けられないので、早く完了する意味もないのだ。
それから一週間後、H級への昇級条件である、I級の依頼20個とレベル15以上も満たし、ミズトはまた階級を上げた。
そしてさらに一週間後、G級条件を満たしたミズトは、目立ち始めていた。
「もうレベル20になられたんですか!? いくら
受付の女性が思わず声をあげた。
「そう言われましても、他の
(レベルはまだ7だけど)
「少しどころじゃないんですよ……。ところで、ミズトさんはいつも階級で一番高額報酬の依頼を受けていますが、G級に上がってもそうされるんですか?」
「はい、そのつもりです」
(こっちはなるはやで金を貯めたいだけだからな)
「でしたら最初にご説明したとおり、パーティ参加をお勧めいたします! G級からはダンジョンに関する依頼が混ざってきますので、初心者で単独は危険です!」
「やっとダンジョン案件があるのですね。パーティ参加は後ほど検討させていただきます。まずは鑑定お願いします」
慣れてきたミズトは、自分から鑑定室へ歩いて行った。
それから鑑定が終わると、受付で冒険者ギルド証を返却された。
「これでミズトさんはG級冒険者です。初回の依頼はこのままお受けできますが、どうなさいますか?」
「ありがとうございます。ではこれをお願いします」
ミズトはそう言いながら、ダンジョン関連の依頼書を三つ提出した。
「ミズトさん!? それならまずはパーティを組んでからいらしてください! それにいきなり三つは欲張りすぎです! ここからは危険度が違いますので、慎重になさってください!」
「いえいえ、まずは依頼の受領だけお願いしてもよろしいでしょうか? パーティはそれから考えます」
ミズトは営業スマイルを作った。
「そうは参りません! ギルドは冒険者の皆さんの安全を考慮した依頼をしております! 無理な依頼を受けないよう注視するのも、我々受付の仕事です!」
「そういうことでしたら問題ありません。子どもではありませんので、自分の安全は自分で考慮できます。まずは受領の手続きをお願いします」
ミズトは笑顔を崩さない。
「そうは参りませんと申してます!」
受付の女性の声が響いた。
「おいおい、あれは何揉めてんだ?」
「この前登録したばっかの新人が、もうG級に昇級してダンジョンにソロで挑むらしいぜ」
「子犬の使い魔を連れてるってことは、
ミズト達のやりとりに気づき、近くにいた冒険者たちがざわつきだした。
それでも受付の女性も引こうとはしないが、ミズトも引くつもりはなかった。ダンジョンに入るためには、そのダンジョンに関連する依頼を受けないと入れないことが分かったからだ。
そして、その依頼がG級以上にしかなかったため、多少変に思われても、偽装ステータスのレベルを早く増やして、昇級したのだった。
(ったく、今までの依頼の報酬じゃやってけねえんだよ!)
【ミズトさんの能力でしたら、ダンジョンでレア素材や宝箱を探した方が効率良く稼げるでしょう】
(だろ? とにかくサッサと2000万G貯めて、ゆっくり過ごしてえんだ!)
ミズトの目標は、戦いのないスローライフ。
そのためには元手が必要なのだが、まずは会社員の生涯年収の平均手取り額と言われている、約2億円を貯めることにしたのだった。
ミズトと受付の女性の言い合いは五分ほど続いたのだが、その間に受付に並ぶ列が増えてしまい、結局受付の女性が折れる形になった。
「分かりました、ミズトさん。そこまでおっしゃるなら、せめて初心者向けダンジョンである『エシュロキア迷宮』の依頼だけにしていただけないでしょうか? ギール地下遺跡はもう少しダンジョンに慣れてからということで」
「なるほど、そういうことでしたら、それでも構いません」
ここは譲歩しないとキリがないというのもあったが、一度に二箇所へ行くわけではないので、ミズトは受付の女性の提案を受け入れることにした。
「ミズトさん、その若さで何故そこまで急いでいるのか分かりませんが、人生は長いんです! じっくり進んで行っても十分幸せになりますよ! 例え遠回りでも焦らずに、一歩一歩を大切に歩んでいきましょう!」
良いことを言っている気がしたが、おっさんのミズトには一つも響かなかった。
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