第49話 エシュロキアへの道中
翌朝、テントを畳み、最終目的地である『エシュロキア』に向けて出発する準備をしていると、前日に乗った馬車の
「君、出発の準備は出来たかい?」
「昨日はありがとうございました。はい、だいたい終わったので、これから出発しようと思っていました」
「そっか。それで一つ相談なんだけど『エシュロキア』に行くなら馬車に乗って行かないかい?」
「馬車にですか?」
ここから『エシュロキア』までミズトは走るつもりでいたのだが、クロがいるためどうしようか悩んでいるところだった。普通に歩いて五日かけるのは面倒すぎるのだ。
かと言ってお金を払ってまで乗り合い馬車に乗るつもりもないのだが。
「もちろん今回もタダでいいよ! 追加の乗客もいないし、魔法使いの君がいれば何かあったとき戦力になるしね。何より、ご老人たちのたっての希望だ!」
この町から『エシュロキア』までは街道がだいぶ整備され、速度を出せるために馬車なら二日で辿り着けるようだ。つまり途中で一泊するだけで済む。
「お申し出はありがたいのですが、今回はお断りさせていただきます。急ぐ旅ではありませんので、歩いて行こうと思います」
それでもミズトは御者の提案を断った。
「そうか、そういうことならしょうがないね。ご老人たちには僕から言っておくよ。じゃあ気をつけて」
「はい、そちらもお気をつけて」
ミズトは手を上げた
急ぐ旅ではないと言うのは嘘ではないが、断ったのはただあの馬車の中で二日間過ごしたくなかっただけだった。
たしかにテントを毎晩準備するのも面倒なのだが、もしかしたらクロが森に帰ってくれるかもしれないし、いざとなれば抱えて走ろうかとも思っていたのだ。
出発の準備を終えると、ミズトは町を出て街道沿いを歩き出した。
ここからは草原が広がっていて、起伏も比較的滑らかで、日本では北海道しか見ることの出来ない地平線が見えた。
周りを見ると、マラソン大会のスタート地点と言わないまでも、同じように朝から徒歩で出発する者が大勢いるようだ。
街道は馬車が余裕を持ってすれ違えるほどの広さはある。しかし赤の他人とずっと並行して歩くのは意識してしまうので、ミズトは前後の間隔をそれなりに空けて歩いた。
後ろからトコトコとついて来るクロがいなければ、さっさと追い抜いていくところだった。
歩いている最中はエデンと会話をすることもなく、ほとんど何も考えずに二時間ほど景色を眺めるだけの時間が続いた後、ミズトは街道から少しずれた方向にモンスターの気配を察知した。
これほど人通りの多い街道から、あまり離れていない位置に複数のモンスターがいるようだ。
(なあ、エデンさん。モンスターが街道まで出てくることはあるのか?)
ミズトは周りの人たちを見ながらエデンに訊いた。
冒険者も少しはいるが、歩いているのはどちらかと言うとレベルの低い普通の人々の方が多かった。
【この街道は比較的モンスターとの遭遇が少ないと言われております。それでも、旅人がモンスターに襲われて命を落とすことは、この世界ではよくあることですので、安全と言い切れるわけではありません】
ミズトはエデンの話を聞いて立ち止まると、モンスターまでの距離や強さを計るため気配の察知に集中した。
(ただ街道を歩くだけもつまらんし、モンスターを狩りながら魔法の練習でもするかな)
【ミズトさん、わたしへの言い訳は不要です。人々の安全のために周辺のモンスターを退治しておきましょう】
(は? なんで俺がそんな金にもならない事をするんだ? 俺はただ、いつも通り近くにモンスターを察知したから、魔法の練習がてら戦ってくるかなと言ってるだけでしかないし。この世界ではよくある事を、俺がどうこうしようなんて思わねえよ。そりゃあ目の前でモンスターに襲われてるのを見殺しにしたら後味悪いけどな。でもそういうのは自国の民を守るために、騎士団やら何やらが戦うのが普通だろ。異世界から来た他人がする事じゃねえよ。違うか?)
【わたしには分かりかねますが、今は発生しているクエストの確認をおすすめします。なお、限定クエストではありません】
「…………こいつ」
ミズトはそう声に出しながらクエストを表示した。
====================
◆クエスト発生◆
クエスト名:街道沿いモンスターの退治
旅人にとって危険な、街道沿いに出現するモンスターを退治してください。
報酬:経験値10
金10G
====================
(なあ、エデンさん。いまだにクエストの報酬が、ほとんど意味のないほど低いんだが、他の
【クエストの報酬はレベルが上がるにつれて増加します。レベル一桁のミズトさんには最低報酬が設定されております】
(ふうん、レベルが上がりづらいせいで低いままってことか……)
何にしても察知したモンスターは倒すつもりになっていたので、ミズトは街道から離れ、生い茂った草むらへ足を踏み入れた。
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