第44話 旅立ち

 なんとか祝勝会を終え部屋に戻ると、いつもと違うクエストが発生し、ミズトを驚かせた。

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 ◆限定クエスト発生◆

 クエスト名:新たな旅立ち①

  ドゥーラの町を出て東へ旅立ちましょう。

 報酬:経験値100

    金10G

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 ◆限定クエスト発生◆

 クエスト名:新たな旅立ち②

  ドゥーラの町を出て西へ旅立ちましょう。

 報酬:経験値100

    金10G

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 ◆クエスト発生◆

 クエスト名:冒険者になろう

  ドゥーラの町で冒険者ギルドに登録し冒険者生活を始めましょう。

 報酬:経験値10

    金10G

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(これってどのクエストにするか選べってことか?)


【はい、そのように考えます】


(町で冒険者になるってやつだけ限定クエストじゃないのか。丁度良かったかもしれないな。いい機会だし…………この町を出るか)


【それでしたら、限定クエストですので明日朝一にでも出発するのがよろしいです】


(明日の朝? ずいぶん急かされるんだな……。まあ、引き留められても面倒だし、それならそれでもいいけど……。東ってスタート地点の方向だよな? あっちには何があるんだ?)


【東にはエンディルヴァンド大森林が広がっておりますが、大森林がどこまで広がっているのか、そしてそれを抜けた先に何があるのか、残念ながら分かっておりません】


(未開の地ってことか。西は?)


【西へ行くと大森林から抜けて、フェアリプス王国の中心部方面に向かいます。町や村がいくつもあり、遥か北西には王都もあります】


(なるほど、なら西だな。大自然に囲まれて暮らしたいわけじゃないしな)


【それでしたら王国南部で最大の町である、『エシュロキア』を目指すことをお勧めします】


(エシュロキア? そうだな、どうせなら大きい町の方が稼ぐ方法もあるだろうし、そこにするか)


 あくまでクエスト発生がきっかけではあったが、ミズトはこの世界に来て最初に訪れた『ドゥーラの町』を去ると決心した。



 *



 翌朝、普段通り持ち物を全てマジックバッグに詰めると、ミズトは部屋を出た。

 いつもと違うと言えば、扉に『ロック』の魔法を掛ける必要がないことぐらいだった。


「あんちゃん、もしかして町を出るのかい?」


 宿屋で清算を済ませると、主人が残念そうに言った。

 特段仲良くしていたわけではないが、毎日のように挨拶を交わした仲だ。


「はい。もともと生活に目途が立つまでのつもりでしたので、そろそろ大きな町へ移動しようと思います。短い間でしたが、お世話になりました。


「そうか、寂しくなるな。また、そのうち顔を出してくれよ!」


「はい、ぜひ寄らせていただきます」

 ミズトはそう社交辞令を言うと、会釈してから宿屋を出た。


「アニキ……」

 宿屋の前でジュリオが待っていた。


「ジュリオさん……? こんな朝早く、どうしたのですか?」


「アニキ、やっぱり町を出ていくんすね……」


(やっぱり? なんで分かったんだ? 恰好もいつもと変わんねえはずなんだが……)

「なぜそう思われるのですか?」


「昨日の宴会で、アニキの様子がおかしかったもんで……」


(野獣の勘かよ! くそ鋭い奴だな)

「そうでしたか。だいぶ落ち着いてきたので、次の町へ行こうと思っています」


「アニキは……こんな小さな町の器じゃねえことは分かっていやした。舎弟としてあっしも付いて行きたいとこなんすが、どうしても行けねえんす。こんな町でも、獣人であるこんなあっしを、小せえ頃から受け入れてくれた恩があるっす。だから……」


(危ねえ! 付いて来るって言いだすかと思った!)

「ジュリオさん! それは大事なことですね! 受けた恩はちゃんと返すべきです! この町でしっかり恩を返していってください!」

 ミズトは自分より二十センチ以上大きいジュリオの腕を、嬉しそうにパンパンと叩いた。


「アニキにそう言っていただけると嬉しいっす。アニキには申し訳ねえっすが、アニキの舎弟として恥ずかしくないよう、この町に恩を返していくっす」


「そうそう、そうしてください! この町は頼みましたよ!」


「へい、任せてくだせえ。アニキもお元気で」

 ジュリオは脚を広げて両手を膝に着くと、深く頭を下げた。


「ジュリオさんもお元気で。ヴィクターさんや雑貨屋のご主人、町の皆さんにもよろしくお伝えください。では失礼します」

 ミズトは軽く頭を下げると、町の出口へ歩き出した。


【ミズトさんでも名残惜しいと思うのでしょうか?】


(は? エデンさん、変なこと聞くね。俺は前の世界で何回か転職して、最終出社日の時はだいたいこんな感じさ。それに、五十年近く生きた世界を捨てさせられたんだぜ? それに比べれば何も感じねえよ)


【なるほど、かしこまりました】


(なんか興味なさそうな返事だな。ま、いいけど)


 ミズトは町の出口まで行き一度振り向いた。

 エデンにああは言ったが、初めて異世界に来てから訪れた町には、自分でも不思議なほど愛着は湧いていた。

 思っていたより色々なことも起こり、どれも前の世界では味わえない経験ばかりだった。


「多少は…………楽しめたかな」

 ミズトは小さく呟いた。

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