第43話 祝勝会

 ミズトは様子を見るために冒険者ギルドの前で留まっていると、状況が落ち着いた頃に声を掛けられた。


「凶暴戦士殿、この度はたいへんお世話になりました」


「……私のことでしょうか? どちら様ですか?」

 ミズトは近づいてきた身なりの良い男に訊いた。


「申し遅れました。私はこの町の冒険者ギルドを取り仕切っておりますカルムと申します。この度はドゥーラの町を救っていただき、冒険者ギルドを代表して感謝を申し上げます。拘束した『漆黒の羽』はギルドが責任を持って騎士団へ引き渡します」

 カルムと名乗った男は深く頭を下げる。


「いえ、感謝されるほどのことはしておりませんので」

(この町の人間にしては小綺麗な格好だな。さすが管理職ってとこか)


「またまたご謙遜を。今やあなた様はこの町の英雄と言っても過言ではありません! できれば我が冒険者ギルドに登録していただきたいのですが」

 カルムは両手を広げて笑顔で言った。


「お誘いは大変ありがたいのですが、その申し出は辞退いたします」


「左様でございますか。でしたらせめて、我らギルドが主催します盛大な祝勝会には、ぜひご参加ください!」


「はい?」


「皆の者もよく聞いてくれ! 我が町の英雄をたたえ、今夜はすべてギルドのおごりです!!」


「おおおおぉぉぉぉ!!」

 周りで聞いていた人々が大歓声をあげた。


(おいおい、参加するなんて一言も……)


【冒険者ギルドへの登録は最初から拒否される前提で、祝勝会の話題が本命だったようです。すでに拒否するタイミングを脱しています】


(くそ、はかられた気分だ……)


【人々が喜んでいますので、ミズトさんが損になることはありません】


(ふん……)

 ミズトは、カルムに引きつった笑顔を返した。





 その夜、祝勝会という名の大宴会がもよおされた。

 冒険者のほとんどは、ただ酒が飲めて喜んでいるだけだが、一部の冒険者や町の住人たちはミズトに感謝し、その功績を称えた。


 町の中心にある大きな広場に町のほとんどの人が集まり、酒や食事が振る舞われている。

 そして、今夜の主役であるミズトの席には、代わる代わる人々が訪れるのであった。


「凶暴戦士さん、助けてくれて、ありがとう! 僕は大きくなったらお兄ちゃんみたいになりたい!」

 母親に連れられて来た小さな子供が、ミズトに握手を求めてくる。


「お若い方よ。とても素晴らしい勇気を見せてくれて感謝いたします。どうかこれからもこの町の平和を守ってくだされ」

「お兄さんの行動はとても立派でしたわ! 私たちのために戦ってくださり、凄く素敵でした!」

 どこかで見た覚えのある老人や女性が感謝を述べてくる。


 ジュリオやヴィクターなど冒険者たちは、感謝というより尊敬や憧れに近いものをぶつけてくる。

 ミズトの戦いを目の当たりにし、その強さに魅了されたようだった。


「大人気ですな! さすがは凶暴戦士殿。ささ、どうぞもう一杯」

 隣に座るカルムがミズトに酒を注いできた。


(この世界は十六歳で酒が飲めるのか?)


【いえ、お酒が飲めるのは十八歳からです。この場合は拒否されなかったミズトさんが責任を問われることになります】


(は? なんだそれ……。それにしても全然酔わねえけど、実はアルコールが入ってないのか? 俺は酒に弱いはずなんだが)


【それはミズトさんが状態異常無効のスキルを持っているためです】


(状態異常無効? はは……気持ち良く酔うこともできないのか)


【はい、そのとおりです。そのためミズトさんがイライラしている原因は、お酒とは別にあります】


(…………そういう指摘はいいから)


 ミズトはもともと強くなることを望んでいるわけではなかった。

 しかしレベルが上がり強くなったことで、セシルを助けられたことや、この町を救ったことは少なからず良かったと感じている。


 それでも、この力を称賛されると、いたたまれない気持ちになった。

 自分の持っていた才能ではない。努力して手に入れた能力ではない。転生するときに何かの手違いで偶然手に入れただけ。

 それを誉められると逆に腹を立ててしまうのだ。


(皮肉にしか聞こえねえよな……)

 ミズトは居心地の悪さを強く感じていた。

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