第42話 ドゥーラの町の解放

「ぐわぁぁぁぁぁっ!?」

 ジュリオが悲痛な声を上げる。


「ヒャーハッハッハッハッ! どうだ? これなら分からせること出来るだろぉ!!」


「さ、さすがかしらっすね……」


(あの野郎! エデンさん、切れた脚はポーションで再生するのか?)

 ミズトは痛みで転げ回っているジュリオを見ながら言った。

 出血が激しく、すぐに処置が必要に見える。


【腕や脚を再生するには、高品質以上の上級ポーションが必要です。ただし、切断した部分をすぐに元の位置に戻し、中級ポーションを使用すれば接合する可能性があります】


(了解だ!)

 ミズトはエデンの話を聞くと同時に飛び出した。


「なんだてめえ? どこから来やがった?」


 ミズトがジュリオの脚を拾い上げると、それに気づいた大男が声を上げた。


「邪魔だ」

 ミズトは大男との間合いを詰め、そのまま蹴り飛ばした。


「なっ?!」

 大男は二十メートルほど吹っ飛び、近くの建物に突っ込んでいった。


「て、てめえはミズトのガキ……」

 マックスがミズトに気づいた。


 ミズトは素早い動きでジュリオの元に移動すると、脚を切断部に充て、残っていた中級ポーションをジュリオの口元へ寄せた。


「ア、アニキ!?」


「ジュリオさん、飲んでください」


 ジュリオが素直にそれを口に含んだ途端、全身が緑色の光で輝き始めた。


「こ、これは中級!?」

 ジュリオは切断された脚を動かした。


「良かった、間に合ったようですね」


「あ、ありがてえ……、さすがアニキっす!」


「ジュリオさん、皆さんの縄も切ってあげてください」

 ミズトはジュリオの縄を切ると、ナイフを手渡した。


「へい、お任せを」


「ミズト君、逃げるんだ……。さっきの大男は『漆黒の羽』の頭領だ。こんな小さな町の冒険者レベルなんかじゃ勝てない……」

 ジュリオに縄を切ってもらったヴィクターが、なんとか立ち上がりながら言った。


「そ、そうですぜ、アニキ! あの男だけじゃねえ! こいつらレベル40台の幹部がゴロゴロいやがるっす!」

 ジュリオも慌ててミズトに言う。


「逃がすわけ……ねえだろう!!」

 瓦礫がれきはじきながら、『漆黒の羽』のボスが建物から出てきた。


「いいか貴様ら! 絶対に逃がすんじゃねえぞ! 取り囲め!!」


 血だらけになった『漆黒の羽』のボスが手下に指示を出した。

 その声に反応し、二百人ほどの盗賊がミズトたちを囲む。ジュリオの言うように、マックスも含めレベル40台が十人いるようだ。


「ア、アニキ、すまねえ。せっかく来てもらったのに、こんなことになっちまって」


「中級ポーションは先ほどで切らしてしまいましたが、初級ならまだ五本ほど残っています。人数分はありませんが、皆さんに使ってください」

 ミズトはジュリオの話を無視するように言った。


「アニキ……?」


「ジュリオさんは右脚でしたね。まあ、鉄の剣で十分でしょう」


 ミズトは鉄の剣を取り出した。

 そして、囲んだ盗賊たちの一番奥にいる『漆黒の羽』のボスへ向くと、一瞬で近づき右脚を斬り落とした。


「がぁぁぁぁぁぁっ!?」


「て、てめえ!? かしらに何しやがる!」

 盗賊たちはボスの姿に動揺を見せるが、なんとか虚勢を張りミズトを威嚇いかくする。


(レベル40台の奴は全員やっとくか)


 ミズトは誰も目で追うことのできない速さで、レベル40台の盗賊十人に一太刀ずつ浴びせた。


「ぎゃあああぁぁぁっ」

 血を流しながら、全員がその場に崩れ落ちる。


(殺さず動けない程度に加減するの難しいんだぜ)


 ミズトは剣を強く振り、刃に付着した血を振り払った。

 モンスターと違い消滅しないことに嫌悪感を抱く。


「な、何がどうなってんだ……」

「おかしら達が全員……」

「あのガキなんなんだ……」


(あとは雑魚ばっかか。エデンさん、この場にいない盗賊も結構いるか?)


【ここにいない盗賊団のメンバーは、町の中にはあと百三人おります】


(なるほど。もう少し減らしておくか)


 ミズトは剣をマジックバッグに戻して拳を握ると、立ちすくんでいる盗賊たちに、驚異的な速さで次々と一撃を入れていった。

 誰もが一発で悶絶していく。


「ア……ニキ……?」


「ジュ……ジュリオ。彼はあんなに強かったのか……?」


「…………」


「…………」


 ジュリオとヴィクターは言葉も出ず、その様子を見守っていた。


(こんなとこか。間違って町の人を殴ってないよな?)


【はい、問題ありません】


 ミズトは盗賊が残っていないか辺りを見回した。

 二百人ほどその場にいた盗賊団のメンバーが、ひしめき合うように倒れている。


「すみません、彼らの拘束と、残った盗賊団の掃討をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 ミズトはヴィクターのところまで来て言った。


「も、もちろんだ! 冒険者連中も今の間に回復しておいた。後は任せてくれ!」


 ヴィクターは冒険者ギルドの前にいる冒険者たちを指差した。

 僧侶や冒険者ギルドの職員が回復を手伝っており、百人近くの冒険者が動ける状態のようだ。


【手伝わないのでしょうか?】


(ん? そもそもこの町の問題だから、俺には関係ねえし。まあ、俺に仕返しするのが目的かもしれないから、ちょっと手伝ったけどな)


【そうですか。わたしには少し怒っていたように見えましたが、そういうことでしたら承知しました】


(…………)

 ミズトはそれ以上なにも返さなかった。


 それから一時間もすると、その場にいなかった盗賊も全員拘束することができた。

 空はすでに赤く染まっている。エンディルヴァンド地下洞窟を出たのは昼過ぎぐらいだったのかもしれない。


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 ◆限定クエスト完了◆

 報酬が支給されます。

 クエスト名:ドゥーラの町の解放

 報酬:経験値100

    金10G

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