第27話 獣人ジュリオ

 翌朝、ミズトが町を歩いていると、自分に意識を向けた何者かが高速で近づいて来ることに気づいた。敵意とは少し違う。


「おめえが噂の『凶暴戦士』か!?」


 それはミズトのすぐ後ろで立ち止まり声を掛けてきた。

 いきなり攻撃してくる気はなさそうだ。


「はい? どちらさまでしょうか?」

 ミズトは面倒そうに振り向いた。


「いいか、おめえ、よく聞け!! 『凶暴戦士』とか言われて浮かれてんじゃねえだろうな? 『狂った』より格好いいとか思ってんじゃねえだろうな? 世の中には上には上がいるんだ! 調子に乗るんじゃねえ…………ぞ? あれ?」


「はい?」

(何言ってんだ、こいつ?)

 ミズトは少し呆れながら相手を観察した。


(タイガーマスク? 着ぐるみか?)


 ミズトの前に現れたのは、全身が獣のような短い毛に覆われ、猫のような尻尾を持ち、虎の被り物をした男だった。


「おめえ、聞こえてんのか? 『凶暴戦士』とか呼ばれて喜んでんじゃねえって言ってん…………だ? あれ?」

 男は脚を肩幅より広く開き、腕を組んで立っている。


 ミズトは状況がよく分からず、思わず男の眼をじっと見た。


 ====================

 ジュリオ LV44

 種族 :獣人

 加護 :風の精霊

 クラス:武闘家(熟練度6)

 ステータス

  筋力 :E(+E)

  生命力:E(+E)

  知力 :H

  精神力:G

  敏捷性:F

  器用さ:H

  成長力:E

  存在力:F

 ====================


(獣人?)


【はい。彼は虎の獣人です。念のための補足ですが、何かを被っているわけではありません】


(被り物じゃないのか!? 獣人なんてこの町に来て初めて見るな)


 日本人だったミズトは、人と話すときはあまり目線を合わせることはない。

 しかしその姿のあまりの物珍しさに、獣人ジュリオの眼をじっと見ていた。


「おめえ…………あれ? どうなってんの? どういうこと?」

 ジュリオはミズトから目線を逸らすと、キョロキョロと周囲を見る。


「えっと、何か御用でしょうか?」

 ミズトはらちが明かないので自分から声を掛けてみた。


「ちょ……ちょっと……おめえ…………あああぁぁぁぁっ!!」

 ジュリオは突然叫ぶと、脱兎だっとのごとく引き返し走っていった。


「…………なんだよ」

 遠ざかるジュリオの背中を見ながらミズトは呟いた。



 *



 その日から、町での状況が少し変わっていった。


 魔法『ロック』のおかげで部屋が荒らされることはなくなったのだが、それだけではなくマックス一家の襲撃に遭うこともなくなった。

 偶然出くわすことがあっても、明らかに向こうが避けるようになっていた。

 その代わり獣人のジュリオが遠くから見ていることが多くなったが、あれ以来、直に接触はしてこない。


 それから、ミズトは自分が絡まれることがなくなってせいで、他人に目がいくようになった。

 ドゥーラの町は、喧嘩や恐喝は日常茶飯事で、スリ、万引き、強盗も毎日起きている。


 ミズトの基本スタンスは『他人が何しようがどうなろうが知ったことではない』なのだが、さすがに被害に遭っているのが老人や子供だったり、女性が性暴力に遭いそうな場面では口を出した。

 厄介ごとに巻き込まれるのは御免こうむりたいが、今のミズトなら声を掛けるだけで皆逃げ出していく。高くなった悪名が役に立つのだ。


 ただ、正義の味方になりたいわけでも何でもないので、

「お兄ちゃんて凄いんだね! 助けてくれてありがとう!」

 と小さな子供に言われた時は、感謝されることにむずがゆくなっていた。


(俺はお兄ちゃんじゃなくおじさんだし。凄いのは変な転生のせいで俺じゃないし)


 それともう一つ大きく変わったことは、万能生産者の熟練度4になってから、ミズトが作成する初級ポーションが最高品質になったことだ。

 そのせいで、「こんな品質の良いポーションは見たことがない!」と、雑貨屋の主人がどうしても欲しがり、断り切れずに初級魔力ポーションだけでなくこれも作成することになった。買い取り額を倍にすると言ってきたのも、ミズトの承諾を後押しした。


 なお、エデンは、最高品質になる要因はステータスの高さと分析した。熟練度が高くても最高品質の初級ポーションが出来るのは超低確率。

 ところがミズトが初級ポーションを調合すると、百パーセントの確率で最高品質になっているのだ。


【初級ポーションでも、最高品質のものは非常に貴重です。価格や市場への影響を考慮し、過剰に販売しないことをお勧めします】

 エデンはそう提言するのも忘れなかった。

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