第28話 『凶暴戦士』と『狂った野獣』

 そんな生活を一週間ほど続けた頃、ミズトはエンディルヴァンド地下洞窟の地下三階で獣人のジュリオと再会した。


「どうも……お久しぶりです」

(面倒くさそうな奴にバッタリ会ったな……)


【彼は四大勢力の一つ『狂った野獣』と呼ばれる獣人です。ミズトさんと同じく単独で一勢力と言われています】


(ま、だと思った。それにしてもエデンさんはどこでそんな情報を仕入れるんだか……)


「きょっ、きょっ……凶暴戦士!!?」

 ジュリオはミズトに気づくと、驚きを隠せない様子で言った。


(狂った野獣に凶暴戦士って呼ばれるのはどうも納得いかんな)

「今日は良い天気ですね。では私はこれで」


「まっ、まっ……待って!」

 ジュリオは、去ろうとするミズトに慌てて近づこうとしている。


(おいおい、よく見たら大怪我して血だらけじゃねえか……)

「お怪我は大丈夫ですか?」

 足を引きずって歩くジュリオに言った。


「あ、ああ……、これは地下八階で……」


「……」


「……」


「…………200Gで良ければ初級ポーションお売りしましょうか?」

 ミズトは沈黙に負けて提案した。


 ジュリオは一瞬悩んだように目を伏せたが、すぐに腰袋から銅貨を取り出した。

「なら……頼んます」


(頼んます?)


 怪我をしているとはいえ、初めて会った時に比べるとジュリオは元気がないというか、勢いがなかった。

 戦闘狂と聞いていたわりには、喧嘩を売られることもなく、ミズトとしては有り難いのだが、何か含みがあるような態度が気になった。


「どうぞ」

 銅貨を受け取ると、ミズトはジュリオへ初級ポーションを渡した。


「これが……アニキの作ったポーションですね。いただきやす」

 ジュリオは一気に飲み干し、空き瓶をミズトへ返した。


(アニキ??)


「すげえ、この回復力、ほとんど中級じゃねえっすか!」

 傷は見る見るうちにふさがり、血色がよくなる。

 ジュリオは動きを確認するように腕を曲げて伸ばし、ドンと自分の胸を軽く叩きながらそう言った。


「回復されたのでしたら良かった。では私はこれで」


「ちょ、ちょっと待ってくれ、アニキ!」

 ジュリオがミズトの服の袖を掴んだ。


「何か御用でしょうか?」

(なにこいつ勝手に人の服の袖掴んでんだ。叩き斬ってやろうか?)


「こ、こんなとこで再会するなんて何かの縁っす! どうかあっしを舎弟にしてくれませんか?」


「…………では私はこれで」

 ミズトはジュリオの手を振りはらった。


「待ってくれ、アニキ! お願いですから頼んます!」

 今度はミズトの腕を直接掴んだ。


「……何を言っているのか私には分かりません。ここで偶然冒険者と会うなんてよくあることですので、その程度で舎弟にしたりなったりというのは理解しかねます」


「いえ、あっしも自分で自分が分からなくなってんですが、初めて見た時からビビっと来たんす! アニキはとんでもねえお人だ。今はあっしより少し強えぐらいだけど、とんでもねえ力を秘めているって! だから、どうしてもアニキについていきてえんです!!」


(まさか俺のステータスが見えてるのか?)


【それはありえません。きっと本能的にミズトさんの能力を感じとっているのでしょう】


(野生の勘ってやつか。いや、こいつの場合は野獣の勘か)

「申し訳ありませんが手を放してもらえないでしょうか? そういうのは困りますので」


「そんなこと言わずどうか頼んます! あっしを舎弟にしてくだせえ!」

 ジュリオはミズトの手を両手で包むように握った。


(こいつ!)


 ミズトは再び手を振りはらうと、剣を抜き剣先をジュリオへ向けた。

「申し訳ありませんと言いましたよね?」


「す、すまねえアニキ。あっしはアニキと争う気なんてねえんだ。でも、舎弟になることはぜってえ諦めねえっす!」


「……舎弟になんてしませんし、もう構わないでもらえますか? 私はこれで行きますが、ついて来ないでください。いいですね?」

 ミズトは剣を納めた。


「分かりました。いきなりでしたので今日は帰りやす。でも、あっしはアニキの舎弟になると決めましたので!」

 ジュリオは頭を下げると、勢いよく走り去っていった。


「…………」

(あいつ面倒くせえな!)

 ミズトは大きな溜め息をついてから、いつもの『青の魔石』が取れるエリアへ向かった。




 次の日の朝、ミズトが出掛けようとすると、寝泊りしている宿屋の前でジュリオが待ち伏せをしていた。


「アニキ、おはようございます! 今日もいい天気っすね!」

 ジュリオは虎のような顔で表情豊かに笑顔を見せた。

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