第23話 乱闘
(なんで入口に人がたくさんいるんだ? モンスターの気配はないし、戦っているわけではなさそうだが)
【大きな有名ダンジョンになると、入口に受付があり入場料を支払う必要があることもあります。しかし、エンディルヴァンド地下洞窟のような辺境のダンジョンは、誰でも出入り自由のはずです】
(ん~、あまりコミュニケーションは取りたくないが、行ってみるしかないだろうな)
冒険者が入口で何を集まっているのか気になりながらも、見向きもせず素通りするつもりでダンジョンへ向かった。
「よおよお、ミズトのガキじゃねえか! こんなとこで会うとはよ!!」
エンディルヴァンド地下洞窟の入口で、以前、雑貨屋の前で争った細身の悪党に声を掛けられた。今日は随分と威勢がいい。
ミズトは無視して洞窟へ入ろうとすると、
「待ちな! ガキが、どこ行く気だ、あ?」
細身の悪党が肩を掴んできた。
(ったく)
ミズトは腕を掴んで、近くの木に叩きつけるように投げ飛ばした。
「なにしやがるっ!!」
そう反応したのは、周りにいた連中だった。
よく見るとクラスが全員盗賊。冒険者にしては偏り過ぎている。
「失礼しました。急に肩に触ってきたものですから、身体が勝手に反応してしまったようです」
「はあ? マックス一家にそんな
一人が声を張り上げた。
(やっぱりマックス一家か。よく見りゃ、あの時の兄貴さんもいるじゃねえか)
ミズトは周りを見回した。
人数は三十人前後で、レベル30を越える者も何人かおり、すでにミズトを取り囲んでいた。
【彼らマックス一家は、マックスという人物をボスとした、盗賊のクラスだけで徒党を組んでいるドゥーラの町の嫌われ者たちです】
雑貨屋の主人だか料理屋の女将だかが言っていたことを、エデンが繰り返した。
「すみません、通していただけないでしょうか? そちらの洞窟に用がありますので」
「ひっひっひ、通すわけねえじゃん! 通りたきゃ全財産置いてきな!」
小太りの悪党が前に出てきた。
「……そうですか。残念ながら今日は持ち合わせがございませんので、貸しておいてもらえませんか? 後でお返ししますので」
「ざけんな! せっかくの借りを返すチャンスだ! 悪りぃが金も置いてってもらうし、通す気もねえんだよ!!」
兄貴と呼ばれていた奴が、指をポキポキ鳴らしながら現れた。
武器を抜いている者はいないが、他も全員やる気のようだ。
さすがに面倒で仕方ないのだが、逃がしてもらえそうにないので、ミズトは背負っていた籠を置き、相手にすることにした。
「今日こそくたばれや!」
「覚悟しやがれ!」
「マックス一家なめんなー!」
(こいつら、ホントに全員でかかってきやがった)
一人対三十人の乱闘が始まった。
どれほど人数差があっても、一度に殴り掛かってくる人数には限界がある。
飛び道具を使われたわけではないので、同時に相手をするのは数人だけで済み、ミズトは善戦を続けた。
「こ、こいつ本当に薬師か!?」
「なんでこんなガキに勝てねえんだ!?」
「このガキ、マックスさんと同じぐらいなんじゃ?!」
マックス一家の者たちは、想像以上の苦戦に焦りだしていた。
ただ、ミズトも勝手が違っていた。
いつものように一方的な勝利とはいかず、とくにレベル30前後は簡単には倒せず、久しぶりに疲労を感じている。
(あ~、めんどくせえ! 何で俺はこんなところで殴り合いの喧嘩をしてんだ?)
【それは敵対しているマックス一家と偶然にも鉢合わせしてしまったためです】
(……)
求めていないエデンの回答のせいで、余計に疲労を感じた。
乱闘は小一時間ほど続き決着がついた。
「ふう、こんなに汗をかいたのはレベル1以来だな」
ミズトは服の胸のあたりを摘まんで、パタパタと動かした。
「この……バケモンが……」
意識のある盗賊が声を絞り出す。
死者はもちろん出ていないが、半分は気絶し、残りも足腰立たないほど叩きのめされている。
立っているのはミズトだけだった。
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万能冒険者の熟練度が2に上がりました!
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(熟練度が上がったか。こんな喧嘩でも上がるんだな。それにしてもマジで疲れた……。このままダンジョン入っても大丈夫と思うか?)
【このような喧嘩でも体術などのスキルを使用していると考えられます。また、ダンジョン内のモンスターは森林に生息するモンスターより遥かに危険ですので、中級ポーションを使用するか、本日は諦めることをお勧めします】
(作った初級ポーションは全部売ったからな。次からは自分用に残しておこう……)
ミズトは中級ポーションを探そうと袋に手をかけた。
パチパチパチパチ
突然、手を叩く音が聞こえた。
(まだ誰かいたか?)
ミズトは音がした方向へ視線を送った。
「これが噂に聞く、凶暴薬師ミズトか。ガキのくせにとんでもなく強えと思ったら、てめえ
どうやら奥に、石に座ったまま見物していた人物がいたようだ。
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