第22話 情報の購入
その翌朝、ミズトは初級ポーションを売るついでに『青の魔石』について尋ねたが、雑貨屋の主人からは情報を得ることはできなかった。なので仕方なく冒険者ギルドで情報を買うことになった。
前の世界では会社員だったくせに、管理職だったくせに、人との関わりが苦手だった。
仕事中はそんなことを言っていられないので、その分プライベートでは社会との関わりを
そんなミズトにとって、冒険者ギルドは入りづらい場所だった。
住民の三割以上にあたる冒険者が、ここを生活の起点に使っているので、この町の繋がりの中心に見えてしまうのだ。
できれば距離を置きたい場所だった。
しかし雑貨屋の主人に、初級魔力ポーションが高く売れることを聞いたばかりなので、なんとか自分の足を向かわせる気になれた。
(ここが冒険者ギルドだったよな? 奥に見える受付みたいなとこで、情報を売ってくれって言えばいいのか?)
【はい、冒険者ギルドの受付で、アイテムや情報の売買から冒険者登録、依頼や達成処理まで冒険者に関わる全てを担っております】
(了解……)
受付には誰も並んでいないようだ。
今のうちにサッサと済ませて目立つ前に去ろう、とミズトは足早に中へ入っていった。
(チッ)
建物の中に入ると一斉に視線が自分に集まり、ミズトは心の中で舌打ちをした。
手や会話を止めてまで視線を向けてくる者さえいるぐらいだ。
「おい、あれって確か……」
「まさか冒険者になるのか……?」
「気をつけろ、すぐ暴れだすって話だ」
ひそひそと、冒険者ギルドの中はミズトの話題で溢れかえった。
やはりこういう人が集まるところは好きになれそうにないと思いながら、ミズトは周りを見ずに受付まで進んだ。
「ど、どういったご用件でしょうか?」
二十代半ばに見える受付の男は、警戒するように言った。
「こちらは冒険者ギルドで間違いないでしょうか? 情報を購入したいと思って伺ったのですが」
「じょ、情報のご購入ですか? たしかにここは冒険者ギルドで、冒険者の方々にお役に立てる情報を提供しております。どういった情報をご希望でしょうか?」
「『青の魔石』を入手できる鉱山かダンジョンの情報を売っていただけないでしょうか」
「『青の魔石』についての情報ですね。かしこまりました。少々お待ちください」
男はそう頭を下げると、受付の奥へと入っていった。
この町には似つかわしくないほど丁寧な対応だ。
「青の魔石だってよ……」
「薬師ってのは嘘じゃなかったのか……」
「あれだけ凶暴なんだ。簡単に騙されるな」
周りの冒険者が聞き耳を立てて探ってきているようだ。
少しすると受付の男が戻り、何か板のような物を台に置いた。
「お待たせしました。100Gで『青の魔石』を入手できる場所をご提示できますが、いかがなさいましょう?」
「ぜひお願いします」
「かしこまりました。それでは」
男が持ってきた板のようなものに触れると、文字が浮かび上がってきた。
====================
エンディルヴァンド地下洞窟
地下三階、地下四階
====================
(エンディルヴァンド地下洞窟? エデンさん、分かりそうか?)
【もちろん存知しております。ドゥーラの町から最も近いダンジョンです】
「ありがとうございます。100Gでしたね。安くて助かります」
ミズトはそう言いながら銅貨を十枚出した。
「はい、『青の魔石』の情報は、この町の冒険者ならほぼ知っておりますので、情報の希少性が低く安価になっております」
「ほぼ!? そうですか……ありがとうございました」
ちょっと損した気にはなったが、冒険者の知り合いを作らない自分が悪いと分かっているので、仕方のないことではあった。
(さすがに脅して聞き出すのは気分悪いしな)
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
「こちらこそお世話になりました」
ミズトは会釈をすると出口へ向かった。
歩いていると、どの冒険者もミズトを意識しているのが分かる。
できれば足を踏み入れるのはもう勘弁したいと思いながら、ミズトは誰とも目を合わすことなく外へ出た。
*
冒険者ギルドを出ると、エデンにエンディルヴァンド地下洞窟の位置を聞き、すぐに向かうことにした。
今のミズトなら一時間で移動できる距離だ。
(なあエデンさん。ダンジョンてモンスターが出たり宝箱があったりするところなのか?)
移動しながらミズトはエデンに尋ねた。
【はい、ダンジョンはミズトさんのイメージしている通りになります。地下ダンジョンの場合、一般的には地下へ降りれば降りるほどモンスターは強くなり、宝箱から発見されるアイテムの価値も高いものになると言われています。ただし、これから向かうエンディルヴァンド地下洞窟は地下七階までの到達記録しかないため、地下何階まであるのか、どのようなアイテムを入手できるのか、解明されていません】
(ふうん、ゲームだったらワクワクしそうな話だが……。あと二十歳若ければ、強くなってダンジョン攻略したいって思ったかもな)
【ミズトさんは十六歳ですので、二十歳若返ると年齢がマイナスになってしまいます】
(いや……)
そういうことじゃないと言いたかったが、言っても仕方ないので、それ以上言葉を思い浮かべないよう気をつけた。
それから少しすると、ミズトはダンジョンの入口付近に大勢の人の気配を感じとった。
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