第13話 セシル・フルール
翌日、モンスターという獲物を物色するため、森の奥へ奥へとミズトは進むと、またモンスター以外の気配を察知した。
(人間? いや、両方か)
どうも人のような気配が一つと、複数のフォレストウルフの気配があるようだった。
(なんでモンスターと一緒にいるんだ?)
【戦っているのではないでしょうか?】
(ああ、そうか。そりゃそうだろうな)
【もしかしたら近くの町の冒険者かもしれません。接触してみてはいかがでしょうか?】
(冒険者ってのは、戦士とか魔法使いとか戦闘用クラスの人間のことを言うんだよな?)
【正確な言葉の定義はその通りです。ですが一般的には、冒険者ギルドに登録する者たちを指す使い方が多くなっています】
(冒険者ギルド? なんだっけ、それ?)
【登録制による冒険者への依頼を斡旋する組織で、報酬の支払いや情報交換など冒険者の活動拠点となる場所です】
(ふうん、お金はクエストだけじゃなく冒険者ギルドの依頼とかでも稼げるってことか)
【はい。ただし、クエストは『転移者』『転生者』のみ発生しますので、この世界の冒険者は冒険者ギルドからの依頼達成報酬か、アイテムの売買によりお金を稼いでいます】
(なるほど、そういう仕組みになってんのか。ま、話しかけるかは別として、ちょっと様子を見に行ってみるかな)
【はい、それが良い判断です】
ミズトは更に森の奥地へと向かった。
(なあエデンさん。あの姉ちゃんってエルフだったりするか?)
目的の場所に辿り着くと、想像どおりモンスターと戦闘中の場面だったが、戦っているのは人間と少し違っているように見えた。
【はい、ステータスの種族欄に表示されているとおり、あの女性はハイエルフというエルフの一種です。耳が尖っていること以外は、華奢で肌の真っ白な金髪の人間に見えますが、人間より遥かに長命で高い魔法素養を持っています】
(やっぱりか。そうするとドワーフとかハーフリングとかもいそうだな)
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セシル・フルール LV73
種族 :ハイエルフ
加護 :水の精霊
クラス:エレメンタルシューター(熟練度8)
ステータス
筋力 :E
生命力:D
知力 :C(+D)
精神力:D(+D)
敏捷性:C(+C)
器用さ:D
成長力:C
存在力:C
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(げっ、またクエストかよ……)
ハイエルフのステータスを見ていると、クエスト発生の点滅マークに気づいた。
ミズトは顔をしかめて内容を確認してみる。
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◆限定クエスト発生◆
クエスト名:セシルの援護
セシル・フルールの援護をしてください。
報酬:経験値100
金10G
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(限定……。この前の青年と違って、レベル73がフォレストウルフを相手にしてんだから、援護なんていらなくないか?)
【必要不必要かではなく、大きな変化を及ぼすかどうかで判断してください】
(それは分かるけど、助けたらどうなる、助けなかったらどうなるって分かってれば、判断しようもあるんだが……)
ミズトはハイエルフの様子を見た。
彼女は六頭のフォレストウルフに囲まれている。
レベル差を考えれば割って入る方が邪魔なんじゃないかと思ったが、どうも様子がおかしい。
(フォレストウルフ六頭で経験値120。クエスト分を入れて220か)
「頂けるものは頂くことにしましょうかね!」
ミズトは剣を構え突進していった。
「ウゥゥゥゥッ!」
ミズトの動きをフォレストウルフが感づいた。
しかしミズトにとってフォレストウルフは狩り慣れた相手。
まるで毎朝のルーティーンのように、六頭を一瞬で退治した。
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◆限定クエスト完了◆
報酬が支給されます。
クエスト名:セシルの援護
報酬:経験値100
金10G
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「すみません、勝手に援護してしまって」
ミズトはハイエルフのセシルに振り返った。
間近で見ると、十年ほど色恋沙汰のないミズトでも、一瞬ドキッとさせられるような美しい女性だった。
今さら恋心など芽生えないが、その美しさは完成された美術品を見ているような感動を覚えた。
「あの町のソロ冒険者? いや、魔力も体力も尽きていて、助かったわ……」
理由は分からないが、どうやらミズトが遠目から感じたとおり苦戦していたようだ。
「そうですか。それであれば良かったです」
「ねえ、あなた、ポーションを持っているなら売ってくれないかしら」
セシルは立っているのも辛そうだった。
怪我はしていないようだが、本人が言うように疲れ果てているのだろう。
ミズトはカズキに貰った中級ポーションを思い出した。
あれから一度も怪我をしていないので使う機会はなかったが、二つとも持ったままだ。
「これで良ければ構いませんが」
中級ポーションを革袋から一つ取り出し、セシルに見せた。
「中級ポーション? 駆け出しの冒険者に見えたけど、この辺までソロで来るだけはあるみたいね。1,000Gでどう?」
(1,000G?)
【中級ポーションなら相場より高めです。良心的な方のようです】
(へえ、そうなんだ)
「分かりました、それでお譲りします」
ミズトが中級ポーションを手渡すと、セシルは硬貨を一枚差し出し、ポーションをすぐに飲みほした。
「ふぅ、体力だけでも回復すれば何とかなるわね。それにしてもあそこがこれ程だったとは……。レベル50以上のパートナーか、せめて回復役がいないと厳しそうね」
セシルは小さな声で呟いた。
「それでは私はこれで」
ミズトは、独り言を始めた目の前のハイエルフに用はなさそうなので、その場を去ろうとした。
「あ、待って! ちゃんとお礼言ってなかったわね。ありがとう、色々助かったわ。私はセシル・フルールよ」
「いえ、大したことはしてません。私はミズト・アマノです」
「変わった名前ね。その黒髪と顔立ち、もしかして
セシルは言い終わる前には立ち去っていった。
(……随分せっかちな子だな)
ミズトは受け取った硬貨を握ったまま、あっけに取られたように立ち尽くしていた。
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