第2話 能力設定
男は暗闇に浮かぶ文字をジッと眺めていた。
====================
□加護
□クラス
□ステータス
====================
(いったいこれは何なんだ? 何をさせられてるんだ? そういえばさっきの爺さんが、設定ルームでポイントを振り分けろとか言ってたな)
男は視線を斜め上へ動かすと『999ポイント』という文字が見えた。
(ポイントが999貰えたって事か? 後ろの学生たちは400ちょいだったみたいだけど……)
男は試しに『加護』に触れると、新たに文字が現れた。
====================
□精霊:0ポイント
□天使:300ポイント
□女神:800ポイント
====================
もう一度『加護』に触れると、現れた文字は消えた。
同様に、今度は『クラス』に触れてみる。
====================
□戦士 :0ポイント
□魔法使い :0ポイント
□僧侶 :0ポイント
□弓使い :0ポイント
□盗賊 :0ポイント
□商人 :0ポイント
====================
スクロールをさせられるようで、商人より下もずっと続いている。
どれか選べと言うことだろう。
次は『ステータス』を見てみる。
====================
筋力 :F 0ポイント △▽
生命力:F 0ポイント △▽
知力 :F 0ポイント △▽
精神力:F 0ポイント △▽
敏捷性:F 0ポイント △▽
器用さ:F 0ポイント △▽
====================
『△』を押すとFがEに変わり、ポイントが増えた。
(なるほど。だいたい仕組みは分かったけど……RPGのキャラ作成? ゲームでもやらされるのか?)
キョロキョロと辺りを見回すが何も見えない。
(とりあえずポイントを振り分けてキャラを作らないと進まないってことか……。下に確定ボタンがあるけど、いきなり押したらポイント使わず終わるのかね)
今やっていることがどんな意味か分からないが、男はそれをする勇気はなかった。
(たしか肉体の再構築に200、若返りに200だったな。てことは残り599か。さて、どうするか……)
男は腕を組み、またジッと文字を眺めた。
(ん? なんだ、自動振り分けボタンがあるじゃん)
少し離れた位置に『自動振り分け』の文字を見つけた。
こういうのは自動の方がバランス良く振り分けてくれそうだ。
男はそんな気がして、その文字へ手を伸ばそうとした。
「待つのじゃ、人間よ」
突然女性の声が聞こえると、周囲全体が輝きだした。
(なんだよ、眩しいなぁ……)
男は光を
「人間よ。わらわこそ女神アルテナじゃ。ひれ伏すがよい」
(女神?)
明るさに目が慣れるまで待つと、男は腕を下ろし、女神と名乗る女性を見た。
全身白いドレスでティアラを着け、たしかに女神に相応しい美しさと神々しさを備えていた。
「女神であるわらわが降臨するなど、特例中の特例じゃ。その幸運に歓喜するがよい」
(なんか押し付けがましいというか何というか……)
男は対応に困り、ペコリと軽く会釈だけした。
「…………まあよい。突然のことで戸惑っておるのだろう」
「それで、女神様が何の御用でしょうか?」
男は丁寧に尋ねた。
女神なんて
「おぬしは不運にも他の者の転移に巻き込まれ、こちらの世界へ来てしまった。それを不憫に思ったわらわ自らが、おぬしへ助言をしに参ったのじゃ。
(転移に巻き込まれた!? まさか、ぶつかった女子高生のことか?)
男は自分の状況を確かめるために、女神へ質問を続けた。
「それでしたら女神様にお尋ねします。私は死んだのでしょうか?」
「まあ、そういうことになるかのう」
「そうですか……。では、今は生き返ったということでしょうか?」
「否。生き返ったのではなく生まれ変わったのじゃ」
「……元の世界に戻ることはできますか?」
「それは不可能じゃ。転移だろうと転生だろうと、元の世界には戻れぬ」
「……なるほど。それで、私は今どういう状況なのでしょうか? ゲームのキャラクターでも作ってるのでしょうか?」
「ゲームのキャラクター? 何を言っておる。この世界で生きていくために、おぬし自身の能力を決めているところじゃ」
「自分自身ですか!? 戦士とか魔法使いとかありましたが、まさかファンタジーのような世界なんでしょうか?」
「そうじゃった。おぬしのいた元の世界には魔法がなかったのう。おぬしたちの世界の感覚で言うと、こちらは剣と魔法の世界じゃ」
「そうですか……」
(マジかよ。それでさっきの学生たちは浮かれてたのか。若い奴らなら、たしかに楽しいのかもしれないが)
男は、理不尽にも巻き込まれて死に、望んでもないのにここへ飛ばされた自分の状況に腹が立ってきた。
「すみません、やっぱり元の世界へ戻してもらえないでしょうか? 巻き込まれたとか承服しかねるのですが」
「話を聞いておらんかったのか? 何度も言うようじゃが、元の世界には戻れぬ。それに、おぬしの情報を見させてもらったが、その歳で妻子もおらず、仕事も何の権限もない名ばかり底辺管理職。大した趣味もないようじゃし、戻っても仕方なかろう」
(はあぁぁ?? 何だコイツ、滅茶苦茶ムカつくんだけど! うちの部長みたいにいちいち見下してきやがるな!)
「では、何の関係もない私が、他の方の転移に巻き込まれて死んでも、女神様としてはどうしようもないと仰るのでしょうか?」
「そ、そうじゃ。女神であるわらわでもどうしようもない。だからこそこうして降臨し、おぬしへ力を授けてやろうと言っておるのじゃ」
男が強く言うと、女神は少しひるんだように見えた。
「えっと、599ポイントの使い方の助言ってことですか? 力を授けてくれるのですか?」
(そんなこと一つも言ってなかったけどな!)
「599? そ、そうじゃ、599ポイントをわらわの言う通り設定すれば、おぬしの人生に力添えをしてやろうというのじゃ。望めば多少のチーレムすら夢ではなく、ざまあ系でもいいぞ? 今からでもスライムや骸骨に転生させてもよい」
「スライムや骸骨って……人間の方がいいんですけど。そのチーレムとかざまあとか意味分からないです」
「そうじゃったの。おぬしは他の候補者と違うのじゃった。ならこれはどうじゃ。本来女神の加護を持つ者にしか与えぬ、ユニークスキルを一つ与えよう」
「ユニークスキル? それはどういうものですか?」
「戦闘に役立つはずじゃ。それさえあれば自分の能力以上に活躍できるじゃろう」
男は段々早口になる話を聞いているうちに、この女神と関わるのはやめておこうと感じていた。
「すみません、もう大丈夫です。お話は有り難いですが、戦闘とかしたくないですし、普通に生きていこうと思います」
(あーめんどくせえ! もういいよ!)
『自動振り分け』ボタンに手を伸ばした。
「待つのじゃ、愚か者! それに触れてはならぬ!」
女神の態度が豹変したが、男はニコッと笑顔を見せると、そのまま文字に触れた。
『自動振り分けが選択されました。
全てのポイントが自動で振り分けされ、スタート地点へ転送されます』
機械音がそう流れると、辺りは白くぼやけていった。
「なんて愚かなことを! ええい、仕方のない!!」
女神の声が男の耳に届くと、音声と文字が追加された。
『女神アルテナがスキル『破壊と創造』を削除しました。
女神アルテナがスキル『女神の知恵袋』と『女神の憂鬱』を追加しました』
男の意識が一度途絶えた。
「行ってしまいましたね」
女神の後ろから、そう言って白い翼の生えた少女が顔を出した。
「なんだあの人間は! 女神であるわらわの話を聞こうともしないではないか!」
「まったくです! 人間の分際でホント無礼ですね!」
「まあよい。やはりあれだけのポイントがあると、あのスキルを習得しておったが、何とか書き換えてやったわ。保険もかけておいたし、最悪の事態は避けられたであろう」
「さすが女神様です! せっかく人間が599ポイントと勘違いしてたのに、自動振り分けを押した時はどうなることかと思いました」
「そうじゃの。ポイントが四桁以上あると表記が999のままだとは、わらわですら知らんことだ。今後はこのようなイレギュラーが出ないよう、何か対策を考えないといかんの」
「そうですね! 付与ポイントが20,000とか、おかしいのにも程があります!」
「想定外のことが起こるものだのう。さあ、戻るぞ」
「はい、女神様!」
女神と天使は、自ら光を発して天界へと戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます