おじさんという生き物が異世界に転生し若返って無双するキモい話
埜上 純
第一章 旅立ち編
第1話 転生
『あなたは転移に失敗しましたので転生します。
なお肉体再構築に200ポイントを消費します』
機械的な音声と同時に、男の目の前にそう文字が浮かび上がった。
(転移に失敗? 肉体再構築?)
男は混乱していた。いったい何が起こっているのか。
自分が今どこにいてどんな状況なのか、まったく理解できていない。
周りへ目をやると完全な暗闇で、視覚できるのは目の前の光る文字だけだった。
『以下のオプションを一つ選択可能です。
□変更なし:0ポイント
□性別変更:100ポイント
□容姿変更:100ポイント
□種族変更:100ポイント
□若返り :200ポイント 』
男の思考が追いつく前に、さらに音声と文字が続いた。
男は四十九歳。肉体的にも精神的にも老いを感じ始めた年齢。
深く考えることなく、思わず『若返り』の文字に触れた。
『オプションが選択されました。
肉体の再構築を開始します』
(ん? そうだ、俺は会社へ行こうと駅のホームにいて、たしか女子高生とぶつかって線路に……)
男は急に我に返り記憶を辿ろうとしたが、辺りが白くなり次第に意識が薄れていった。
次に意識を取り戻すと、今度は何かの列の後ろに並んでいた。
周りは明るいが、見渡す限り遮蔽物はなく草一つない荒野が続く。空は見たことのない色のマーブル模様で覆われ、雲は見当たらない。
(間違いない、俺は死んだんだ。死後の世界ってのはあるんだな)
男は死んだ記憶も自覚もあった。
そのせいで現実にはあり得ない目の前の景色を受け入れていた。
列の横から前を覗き込むと、男より前には五人しか並んでいなかった。
三途の川へと続く列なら、もっとたくさんの人々が並んでいるはず。
毎日、日本人だけでも何千何万と亡くなっているのだ。
いったい何を待っているのか分からず、男は先頭をよく観察しようとすると、
「おおっ! ガチ異世界転移できたみたいじゃん!!」
「なっ! マジすげえんだけど!!」
突然、すぐ背後から話し声があがった。
振り向くと、いつの間にか男の後ろに二人並んでいる。学生服を着た、中高生ぐらいの男子だ。
(おいおい、こんな若い奴らが死んだのか?)
二人は友人のようだったので、一緒に自殺したんじゃないかと、男は考えたくもない悲劇を想像した。
しかし彼らの話を聞いているうちに、どうも自分の思っている状況と違うことに気づきだした。
「なあ、ポイントいくつだった?」
「436だってさ。お前こそいくつなんだよ」
「429。んだよ、お前の方が多いじゃん!」
「大して変わんねえよ! そんなことよりマジ死ななくて良かったよな」
「ホントそれ! 天使の加護は300ポイントだっけ? 死んで転生者になったら肉体再構築に200使うっつう話だから、足りなくなるじゃんな」
「だな。転移失敗とかマジ下がる」
転移失敗。肉体再構築。
つい先ほども聞いた言葉だ。
(俺は死んだんだよな? ここはどこなんだ?)
一度冷静を取り戻した男だったが、理解が追いつかず動揺してきた。
「おい、お前! お前だよ! お前の順番だ!」
今度は前から声がした。
振り返ると不機嫌そうに男を見ている老人がいる。
日本人ではない。いや、
「なんだお前、転生者か!」
老人は立体映像のように浮かんだ書類を見ながら、男と見比べた。
「えっと……私でしょうか?」
目の前にいたはずの五人がいなくなっていて気になったが、男はまず老人の言葉に反応した。
「お前しかいないだろ! ん? お前まさか若返りを選んだのか? 四十九歳には見えないぞ?」
「!?」
男は慌てるように自分の身体を見下ろし、あちこちと確認を始めた。
(着てるのは見覚えのあるいつものスーツ。手の甲や指は随分綺麗だな。髪は……?! 少し増えてる!!)
「その喜びようは若返りを選んだようだな……」
老人は呆れた顔をしながら続けた。
「後先考えず400ポイントも使えばほとんど残ってないだろうが、これからお前は設定ルームに移動し、残りのポイントを振り分けてからスタート地点に転送される」
「え……? あの……」
「質問は受け付けん。全てガイドに書いてあったであろう。さあ、行ってこい。一応幸運を祈ってやる」
「ちょっ……そのガイドって……?」
男の言葉はかき消され、周りの景色がぼやけていくと、気づけばまた暗闇の中に立っていた。
*
「女神様、大変です!!」
「何を慌てておる。ここは優雅な時の流れる天界じゃ。静かにせぬか」
「申し訳ございません! ですが、何一つ手順を踏んでない者が転生してしまったようなんです!」
「なに? それは珍しいのう。たまに省略しようとする者もおるが、何もしないと転移も転生も出来ないはずじゃが」
「それが、どうやら他の者の転移に巻き込まれて死んでしまったようでして」
「巻き込まれた? そんなことがあるのか。わらわでも聞いた事ないぞ。ん? 待つのじゃ、まさか候補者でもないのに転生したのか?」
「は、はい。そのようです」
「それはまた色々と不運の奴じゃの。まあ仕方のないことじゃ。そやつにはこちらの世界で今後の人生を過ごしてもらうしかないの。死んだとなると再構築に200ポイント使うが、それでも200以上は余るはず。普通には生きていけるじゃろうて」
「そのことなんですが……」
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