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オーギュ先生がシスターと子供たちを診ている間に手紙を書く。
手紙を送る相手は第三王子。
彼は、王族でありながら表に出る事が許されない存在。
なぜなら、第三王子は国王と平民の間に生まれた子供だから。
愛し合って生まれた存在なら、母親が平民でも違う対応になったのかもしれない。
でも現実は、酒に酔った国王が気に入ったメイドを無理矢理襲って出来た子。
今では見向きもされず、離宮で肩身の狭い思いをしている。
彼女には、結婚を約束した恋人がいたのにね。
そして第三王子は、殺される。
彼は騎士団に入り、頭角を現し多くの民から慕われる様になる。
それに危機を感じた正妃が、彼を殺す。
国王は正妃の動きに気付いていたが止めなかった。
「王族は本当に屑よね」
手紙を書き終え、窓の外を見る。
雨は小降りになってきている。
前回の死に戻りの時、第三王子を助けようと動いたけど手遅れだった。
彼は正妃に毒殺されてしまった。
「あの時は悔しかったわ」
今回は必ず助けてみせる。
それにしても、こんなに早い時期から関わりを持つ事になるなんて思わなかったわ。
でもこの問題は、彼にこそ解決して欲しい。
彼なら、正しく判断出来ると思うから。
前回までは、子供たちを買った貴族にまで捜査の手が伸ばせなかったのよね。
騎士団の一部が、貴族に買収されていて。
「第三王子なら大丈夫だと思うけど……」
正妃の出方次第では、私が動く事になるかもしれないわね。
コンコンコン。
「失礼します。オーギュです」
「はい。どうぞ」
オーギュ先生は入ってくると頭を下げた。
「先生、頭を上げてください。皆を見てくれてありがとうございます。どうでしたか?」
「シスターの状態がかなり悪いですね。栄養失調だったせいで、風邪が悪化した様です。子供たちも、それほど酷くはないですが栄養失調気味です。風邪を治すためにも、栄養のある物を食べさせて欲しいのですが……」
この教会が私の家の管轄では無いと分かっているのだろう。
顔を曇らせるオーギュ先生に、優しく笑いかける。
「分かりました」
「えっ?」
「子供たちに栄養のある物を沢山食べさせます。だから、安心してください」
「大丈夫ですか? 貴族というのは、他の貴族の手助けを嫌う。とくにここの教会を管轄する奴は……あっ、いえ。えっと」
オーギュ先生は、シュベリス伯爵を知っているみたいね。
彼の様子から、シュベリス伯爵を毛嫌いしているみたい。
「数日後に、また彼等の様子を見に来る事は出来ますか?」
「えぇ、かまいませんよ」
「ありがとう。これを」
オーギュ先生に金貨を渡す。
「えっ! これは多すぎます」
彼の言葉に首を横に振る。
「この教会の状態を、ある方に証言して欲しいのですがお願い出来ますか?」
「証言ですか?」
「はい。子供たちを助けるために」
私をジッと見たオーギュ先生は、一度深呼吸すると頷いた。
「子供たちのためになるなら証言します」
「ありがとう」
ギィー。
扉の開く音に視線を向けると、アラクがいた。
「あの、手紙」
あぁ、手紙を届けて欲しいと頼んでいたわね。
「書き終わっているわ。ミッテはどこかしら?」
「ハルティアお嬢様。私はここです」
アラクの後ろから姿を見せたミッテ。
「もう一度馬車を出してくれるかしら?」
「もちろん大丈夫です。でも、どちらに?」
「シュベリス伯爵領にある騎士団の駐屯地よ。そこで副団長に手紙を届けて欲しいの。渡すのはアラクにお願いしたわ」
アラクを見ると、真剣な表情で頷いた。
シュベリス伯爵領にいる騎士団の副隊長は第三王子と親しいのよね。
第三王子が死に、その原因を突き止めたのは副団長だった。
ただ、犯人を突き止めたせいで彼も殺されたけれど。
「分かりました。では、行こうか」
「うん」
アラクに近付き手紙を渡す。
「アラク、手紙は副団長に直接渡してね。誰かが間に入ろうとしたら、お願いした人に怒られるって泣きわめいたらいいわ」
私の言葉に目を見開くアラク。
「泣きわめくの?」
「うん。周りにいる人達に聞こえるぐらい」
「えっと、うん。分かった。絶対に副団長に渡すね」
「ありがとう」
ミッテとアラクが部屋から出て行くのを見送る。
もし、あの手紙が副団長以外の手に渡ったら、面倒な事になるわね。
でも、アラクはきっとやり遂げてくれるはず。
あとは、
「アーニャ、シスターと子供たちのためにご飯を作りましょう?」
「えっ、ハルティアお嬢様がお作りになるんですか?」
「そうよ? ダメかしら?」
「ダメです! ハルティアお嬢様は指示だけ出してください。私が作りますから」
チラッとアーニャを見る。
これは本当にダメそうだわ。
諦めましょう。
「分かったわ、では具材を、あっ」
失敗してしまったわ。
この教会にまともな食材など無かったんだったわ。
ミッテは当分戻ってこないと思うし。
どうしましょう。
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