お助けキャラ
アーニャとトラス・カーシュの出会いは完璧。
あとは、見守るだけ。
だってアーニャは、放っておいても恋にどんどん狂って行くから。
あとは頃合いを見てエサをばらまき、弱みを握り手駒にするだけ。
今回は、途中で死なないようにうまく使わないとね。
楽しみだわ。
「ハルティアお嬢様。今日はこのまま帰ってもよろしいですか?」
「いえ。隣の町まで行ってくれるかしら? 少し気になるお菓子があるの」
「お菓子ですか?」
不思議そうに首を傾げるアーニャに、優しい笑みを作る。
「えぇ。三日後から王妃様の王子妃教育が始まるの。お手を煩わせるから、贈り物をしようと思ってね。あと、屋敷の皆にもいつものお礼を兼ねて買って行こうと思っているのよ」
「そうなのですね。分かりました」
次の対象は、お助けキャラ。
これは、アリアリス・チャス伯爵令嬢を手助けしていた者のことを指す。
なぜお助けキャラと呼ばれているのかは、二人の会話からは分からなかった。
だから、そういう物として理解している。
お助けキャラの名前は、アラン。
アリアリス・チャス伯爵令嬢の従者として、学園に来る。
そして彼は、彼女のためなら何でもした。
その理由は「弟を死に追いやった者に、断罪をしてくれたから」らしい。
それを知った時は笑ったわ。
だって、アリアリス・チャス伯爵令嬢とフィリスリア・バラスティア公爵令嬢の会話から、彼女たちは幼い時から先に起こることを知っていたようなの。
それなのに、アランの弟は死んだ。
つまり二人は、アランを手駒にするために弟を見殺しにしたことになる。
ふふっ、本当にあの二人はあくどいわ。
目的のためには、幼子を見殺しに出来るのだから。
まぁそうでなければ、いろいろな処刑方法など思いつく訳がないわね。
ただ真実を知ったわたしは、少しアランが可哀そうになった。
だって、二人に利用されるだけの存在だから。
まるで二人が幸せになるために処刑される、わたしみたいでしょ?
だからわたしは、アランの運命を変えることにした。
そのために重要なのは、アランの弟だ。
弟の死を防げば、アランが手駒になることは無くなる。
ただ、彼の弟が何処にいるのか、二人の会話からは分からなかったのよね。
でもアランが孤児だったので弟も孤児だと判断し、前回の死に戻りで問題を抱えている教会を調べた。
そして目星をつけたのが、八カ所。
どの教会も運営資金が少なく、最悪の環境で子供たちを保護していた。
教会は未来を担う子供たちを保護しているので、国から補助金が出ている。
また教会のある地域に住む貴族たちも、国が決めた金額を寄附している。
だから子供たちは、最低限の生活が保障されている。
でも、わたしが見つけた八カ所の教会は、最低限の生活も出来ないほど貧困だった。
原因を調べたら、八カ所のうち六カ所では教会を管理している貴族が国からの補助金を横領していた。
二カ所は、古くなった建物の修繕に費用がかさんだためだったので除外。
六カ所を詳しく調べると、ある貴族名があがった。
教会を管理しているシュベリス伯爵家。
広大な土地を持ち、資産も潤沢な昔から続く名家。
ただ、シュベリス伯爵家は問題を抱えていた。
それが、当主のギャンブル依存。
王都にある、違法なギャンブルにどっぷり嵌っているようだ。
ここ数年で、潤沢にあった資産が面白いぐらいに減っていた。
おそらく、補助金も伯爵のギャンブルに消えたのだろう。
つまりアランの弟は、シュベリス伯爵家が管理している六カ所の教会の一つにいる。
そして運がいいことに、シュベリス伯爵家の領地はわたしのお父様が治めている領地の隣。
今から向かう隣町にも、シュベリス伯爵家の管理している教会がある。
ただそこにアランの弟がいる可能性は、六分の一。
そしてシュベリス伯爵家が治めている領地は広く、一番遠い教会に行くには一日もかかってしまうので、王妃教育が始まるわたしには行くことが出来ない。
近場から探して見つけられない場合は、ある者たちへの接触を早める必要があるかもしれない。
でもまずは、一番近い教会にどうやって行くか。
お父様の治めている領地の教会だったら、様子を見に行っても問題はない。
でもここはシュベリス伯爵家が治める領地。
教会に行くためには「何かしらの理由」が必要になる。
理由も無く行くと、不審がられることがあるから。
ん~、理由は何がいいかしら?
ガタン、ガタン。
急に馬車が大きく揺れ、体が前に勢いよく傾く。
「あっ……」
「ハルティアお嬢様!」
慌てたアーニャの声が聞こえると同時に、温かい物に体が包まれた。
馬車の動きが止まると、自分がアーニャに抱きしめられていることに気付く。
「アーニャ、ありがとう。助かったわ」
「お怪我はありませんか?」
「えぇ。アーニャが守ってくれたから大丈夫よ。でも、アーニャは? 怪我をしていない?」
「はい。わたしは丈夫なので、大丈夫です」
「本当に?」
「ふふっ。本当です。ハルティアお嬢様は心配性ですね」
「当たり前よ。わたしの大切なアーニャのことなのだから」
わたしの言葉に、嬉しそうに笑うアーニャ。
そんな彼女にわたしも、小さく笑った。
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